カテゴリ:食べ物
私たちの舌は、確かに脂っこい食べ物と低脂肪食品の違いを判別することができる。脂肪分無調整のアイスクリームやクリームチーズは、舌触りがより滑らかで、贅沢な味わいがある。また、一概に、脂がのった肉で作るハンバーガーは、赤肉で作るハンバーガーよりジューシーである。 このように、私たちにとって、脂身が食事に魅惑的な食感を添えるという事は長年に渡る常識であった。ところが科学者たちの間では、今になってようやく、脂味を甘味・塩味・酸味・苦味・旨味に並ぶ第六の主要な味覚に加えるべきであるという議論が始まったようだ。 今年2月、オーストラリアのディーキン大学の研究者たちが、フレイバーという新聞に論文を掲載し、「ここ5年から10年のうちに、脂味を第六の味覚として扱うかどうか結論を下すべきだ。」と論じた。 それでは一体、どうすれば脂が正式な味覚として認識されるようになるのだろうか? 「厳密に言うと、味覚とは化学的な機能である。」と、ディーキン大学の感覚専門の化学者で、この論文の筆頭著者であるラッセル・キースト氏は述べた。彼によると、例えば塩や砂糖の結晶などの化学物質は、私たちの口内にある感覚細胞に触れる事によって、一連の反応を引き起こす。私たちの口内にある細胞は、甘味や塩味を帯びた何かに対する知覚を他の神経細胞へと伝え、その神経細胞が徐々にこの情報を脳へと伝達するのである。 この論文によると、何かを主要な味覚として定義する為には、5つの基準を満たさなければならないそうだ。まずは、塩や砂糖のように、味蕾(舌の表面にあるでこぼこした味覚を感じるための感覚器官)上にある特定の感覚器官を刺激するような化学物質である事。そして、知覚した味を脳で処理する為に、感覚器官と脳の間を連絡する経路が存在しなければならない。さらには、このようなプロセスが引き金となって、身体へと何か影響が現れる事も重要だ。 脂に関して言うと、化学者たちは既にその刺激の原因となる物質の正体を捉えている。それは、ラードやバター、油の中にブロックのように組み重なっている脂肪酸という物質である。しかも、私達の口内や腸内には、この脂肪酸を知覚する事ができる感覚器官が備わっている事もわかっている。 しかし研究者たちは、舌上の感覚器官が脂の存在をどのように信号化して脳へ連絡しているのか、多少の手掛かりはあるものの、未だにはっきりと説明することができていないのである。 また、脂を味覚とする発想について、もう一つ議論の余地がある興味深い論点が残されている。「私たちが何か甘い物を食べる時、甘味というものを瞬間的に知覚できるだろう。ところが脂肪酸の場合は、意識して捉えられる感覚がないのだ。」と、キースト氏は言う。 キースト氏によると、彼の実験では、純粋な脂肪酸の味を言葉にして表現できる人はまず居ないそうだ。「水ではないという事はわかるのだが、それが何故なのかはわからない。」と被験者たちは言うのだと、彼は説明する。「そもそも、この感覚を表すための語彙というものが無いのだろう。」 「ただし一つだけ例外がある」。キースト氏は続ける。食べ物が腐って臭うのは、菌やバクテリアが、ラードや油の中にある中性脂肪を分解したというサインである。つまり、食べ物が腐敗の状態に達してしまえば、私たちも脂肪酸を知覚することができるのだ。 このように、この脂肪酸を知覚する能力が欠けているため、脂を真の味覚と認めるには至らないというのが一般的な論理だ。 脂が味覚であるならば、他の味覚とは種類が異なると、今回のフレイバー紙には登場しなかった、パデュー大学の食物化学教授であるリチャード・マッテス氏は言う。 「脂質を基本的な味覚であると認める事は、シャーテルーズグリーンが原色だと言うのと同じ事だ」と、マッテス氏。「この認識によって、味とは何か、と言う根本的な理解が変わるだろう。」 既に、脂は、体に何かしらの影響を与えるという、味覚としての基準を満たす確証を持っている。脂は、そもそも私たちの体組織が欲し必要とする重要な栄養素である、その上、脂肪酸を特に知覚する事は無かったとしても、舌上に脂肪酸が現れることで、消化器官に連絡が届き、脂肪を消化するための酵素を備える動きがあるという事も確認されている。 また、脂肪酸の味によって、私たちの脳や消化器官に信号が送られ、高カロリーで胃にもたれるような物が消化管へ流れてくるから食べるのを控えるべきだ、という情報が伝えられたりもするのである。 「これが、今のところ、低脂肪仕様の食料品が一般的に成功を収められていない理由だろう。」とマッテス氏は解析する。低脂肪に作り変えられた代替製品のほとんどが、脂肪分の食感のみを真似るようにデザインされており、味覚の方まで工夫が行き届いていない。だから、私達の体をごまかし切れていないのである。 「脂を味覚と認識すれば、低脂肪製品をもっとうまく開発できるだろう。」とマッテス氏は続ける、無論、今のところ研究者たちには、果たしてそれがどんな結果を生むのか、確信は持てないそうだ。 また、研究者たちは、脂肪酸を知覚する口内器官と肥満の関わりについても注目している。未だ発展途上の論拠ではあるが、肥満体の人々は脂味を感じづらいために、高脂質な食べ物に刺激を求めているのではないか、という予想である。 「まだ全ては解明し切れていない。しかし、私達は核心に近づいているはずだ。」と、マッテス氏。「これらの論証は、私の見解としては、わりと根拠がしっかりとしていて、さらなる発展が期待できそうだ。脂味が味覚として受け入れられる日もそう遠くないだろう」。マッテス氏はそう結んだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.03.03 17:37:55
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