165年間分の競馬の優勝記録を研究した結果、競走馬は速くなり続けていることが判明した。競走馬のスピードは限界に達していると考える業界人にとっては驚きかもしれない。
本研究は、世界最古の科学学会である王立協会が発行する『バイオロジー・レターズ』誌に掲載された。
先行研究では、競走馬のスピードは1950年以来速くなっていないとされてきた。このことから、競馬業界ではサラブレッドの速度は限界に達したものと考えられることが多かった。未来の優勝馬を作るため、種馬に大金を支払うことに意味があるのか疑問を持たれるのも、こうした背景がある。
短距離レースでの結果
英エクセター大学博士課程に在籍するパトリック・シャーマン氏らは、従来の研究が包括的なものではないことに気がついた。先行研究では、限られたレースの優勝記録しか分析していなかったのだ。そこでは中距離(約1600~2400m)と長距離(約2800~4000m)は対象とされているが、短距離(1000~1400m)については除外されていた。
そこで、シャーマン氏は、1850~2012年までのいわゆるエリートレースの一つ一つの結果のほか、1997年以来の全レースを含めて分析した。
その結果、1910~1975年にかけては、速度にほとんど改善が見られなかった。しかし、それ以降は、短距離レースに関しては着実に向上していることが判明した。過去15年間の1200mレースにおける平均優勝記録は1秒以上も縮まっている。短距離レースとしては相当な短縮だ。最近の競走馬は、90年代初頭の競走馬を7馬身も引き離すことができるのだ。
だが、中距離と長距離においては、ほとんど変化が見られなかった。
速度重視の繁殖による遺伝子の変化
シャーマン氏によれば、持久力よりも、速度に重点を置いて馬が繁殖されてきたことが原因である可能性があるという。もしこれが事実であれば、繁殖方法を変えることで中距離および長距離の記録も改善できる可能性がある。
こうした速度の上昇は、元騎手レスター・ピゴットが採用した短いあぶみの登場による1970年代以降の乗馬技術の変化、あるいは訓練方法の改善によって説明することができる。いずれの原因であるかは、さらなる研究が必要なようだ。
だが、長距離において改善が見られないのは不思議であり、まだまだ限界には達していないとシャーマン氏は話す。「直感ですが、ブリーダーが持久力よりも速度を重視したことで、遺伝的な変化が起きたのではないかと考えています」
英ニューマーケット近郊の牧場ナショナルスタッドの代表を務めるブライアン・オローク氏によれば、商業的圧力が速度重視の繁殖をうながすという。1970年代、ダービー優勝馬は2400mではなく4000mのゴールドカップに出場した。だが、70年代末から80年代初頭にかけて、サラブレッド業界は商業化が進み、2歳で走る早熟な馬が好まれるようになったことから、速度を重視した繁殖が行われるようになった。
「皆、早急に結果を求めすぎるのですよ」とオローク氏。なお、昨年実施されたBBCの調査では、人間のアスリートも速くなり続けていることが判明している。