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カテゴリ:私事・昔のことなど
「男たちの帝国」(星乃治彦著:岩波書店刊)という本を読んだ。題はちょっと変わっているが、著者はドイツ近現代史の専門家で、副題は 「ヴィルヘルム2世からナチスへ」 となっており、宣伝用の帯には 「セクシュアリティから歴史を問い直すクィア・ヒストリー」 と書かれている。 本論にはいると、まずビスマルクを失脚させて対英仏強硬路線をひた走り、第一次大戦を引き起こして、ついにはドイツ帝国そのものを崩壊に追い込んだウィルヘルム二世を巡る男性同性愛という 「スキャンダル」(皇帝とその寵愛を受けた男性の側近の同性愛的関係)について論じられている。 さらに、ワイマール共和国時代の同性愛者による解放運動、また突撃隊長レームに象徴されるミソジニー(女嫌い)を軸にしたナチス内部の戦士共同体的な男性同性愛、そして、レーム粛清後、ナチス政権によって進められたいわゆる 「強制的同質化」 の中で行われた、隔離や去勢・断種といった、彼らに対する様々な 「処置」 について紹介されている。 ただし、著者によれば、ナチスによる同性愛者への弾圧は、ユダヤ人に対する弾圧ほどの組織性には欠けていたということだ。それは、ナチスにとっても 「同性愛」 という問題が明確に定式化されることがなかったからだと、著者は指摘している。もっとも、そのことは、運悪く弾圧の対象となって、強制収容所に送られた同性愛者を待ち受けていた運命の過酷さを減じるものではもちろんない。 フェミニズムや同性愛者の解放運動を、政治的な課題と直結させているかに見える著者の方法には、やや疑問が残るが、様々な興味深い史的事実を、歴史の暗部から拾い上げてきた筆者の努力は諒としたい。 最後に、やや個人的なことを述べると、著者は私の大学時代に、「政治史」 に関する同じゼミで学んだ人である。彼が、自分自身が同性愛者であることを明らかにした部分を読んだところでは、正直に言って軽い眩暈のようなショックを覚えた。 著者と私とは同じゼミに二年間在籍したとはいえ、必ずしも親しかったわけではない。当時、彼は国内最大の左翼政党の支持者であり、こちらはそれに対して批判的な立場にあったからだ。 ただし、当時の印象としては、彼は党の主張を丸呑みにして、批判者を頭から敵視するゴリゴリの活動家ではなく、われわれの批判にも静かに耳を傾けてくれる、穏やかな人であったように思う。ただ、当時、彼がそのような悩みを抱えているということは、まったく思いも及ばぬことであった。 それは、彼とそれほど親しい仲ではなかったことを考えれば仕方ないことかもしれないが、それでもなにか消化しきれないものが残る。当時の自分は、他人の苦しみに対して鈍感な傲慢な人間ではなかったのか。それは、今なお考える価値のあることのように思える。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.03.24 06:22:05
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