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カテゴリ:文学その他
福田善之の 『真田風雲録』 といえば、40年以上前の作品であり、戦後戯曲作品の中でもすでに伝説となっている作品である。その名を耳にしてからすでに30年ほど経っているが、先日ようやくこの作品に触れることができた。 噂によれば、豊臣氏が滅んだ大阪の役を題材にしながらも、60年安保闘争の高揚と挫折を踏まえて書かれた作品ということであったが、実際に読んでみると、なんとも抱腹絶倒かつ痛快無比な作品であった。手にしたのは、図書館の新刊本コーナーから借りてきた、今年三月に早川書房 「ハヤカワ演劇文庫」 の一冊として刊行されたものであったが、ほんとうに、今まで生きていて良かった。 この作品がいかに斬新であるかは、たとえば、真田十勇士の一人である根津甚八の次のような台詞からも明らかだろう。
あるいは、もう一つ、同じ根津の台詞から
言うまでもなく、このようなことを17世紀の侍が言ったり考えたりしたはずはない。そんな言葉も概念も、400年もの昔にあったはずはない。また、この口調が60年代のいわゆる 「急進的左翼活動家」 のそれを模したものであることも言うまでもない。この作品では、そのような煩わしい時代考証など、はじめから無視されている。 実のところ、ここに書かれているのは、情況の停滞を嫌い、最終的な目標達成まで先鋭的少数派の行動によってたえず情況を切り開きつづけていこうという、60年代に登場した一種の 「永続革命」 的思考であり、挫折した夢なのである。 つまり、この作品では、大阪の役の戦いで、豊臣方として唯一鮮やかな戦いを見せた真田幸村率いる真田隊が、60年安保闘争の中で最も戦闘的に戦った当時の学生らに、その一方で大野治長ら豊臣方の幹部らが、「統一と団結」 という言葉で、彼らの先鋭な行動を抑えようとしていた既成左翼勢力に擬されている。 この作品、はるか昔に角川文庫に収められていたということは知っていたが、これまで30年間、どこの古本屋を探しても、ついぞ見かけたことがなかった。ところが、ちょっと調べてみると、なななんと六年前に新潮文庫で出た、ミステリー作家である北村薫編の 『謎のギャラリー 愛の部屋』 なる題のアンソロジーに収録されていたというではないか。 おいおい、そんなの聞いてないよ! という話である。そもそもミステリー作家編集の 『謎のギャラリー 愛の部屋』 なんて甘い題のアンソロジーに、かの名作 『真田風雲録』 が収録されているなんて、いったい誰に想像できる? 不親切にもほどがあるというものだ。 北村薫によれば、彼がこの作品を 「愛の部屋」 に収録したのは、他人の心が読め、姿を消すこともできるという猿飛佐助と、霧隠才蔵 (じつは 「むささびのお霧」 という名の女性ということになっている。そういえば、つかこうへいは 「沖田総司=女性」 説をとなえていたが、それもここからヒントを得たのかもしれない) の悲恋、さらには政治的には対立しながらも、心の中では真田十勇士らの破天荒な生き方に憧れていたとされている、「大野修理の十勇士たちへの愛」 (北村) をこの作品のポイントとして捉えたからだという。 うーん、そう言われると、そうなのかもしれない。まあ、なにはともあれ、そのおかげでこの作品の面白さに触れたという人もいるだろうから、それについては文句は言わない。でも、さっそく本屋に行って聞いてみたら、もう品切れじゃん。 ところが、昨日、近くのBOOK OFFになんの気なしにぶらりと寄ってみたら、これがたった105円で売っていたのだった。まさに、天の助け、天はわれを見捨てず! ともいうべき事件であった。 真田隊マーチ (劇中歌)
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