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カテゴリ:ネット論

 九月に入ったと思ったら、なんと福田首相の突然の退陣表明である。北京五輪で金を取った柔道の石井選手は、帰国後の総理訪問を終えて、「福田総理は、ほかの総理と違って純粋さが伝わってきました。腹黒くないからこそ、政治家としての人気が出ないのかな」 などと記者団に語ったそうである。

 石井選手が福田総理と対比して 「腹黒い」 と評した 「ほかの総理」 というのがいったい誰のことか、というのも気になるところだが、1986年生まれの21歳だそうだから、彼の知っている総理といえば、阪神大震災への対応で非難されたりもしたが、たぶん眉毛がチャームポイントだった村山富市氏あたりからだろうか。

 偶然か、はたまたなにかの巡り会わせなのかは知らないが、福田首相の在任期間は、前任者の安倍氏と、ほぼどっこいどっこいに達している。その点、ひょっとすると、彼の胸のうちには、首相の在任期間としては、いわば最低ラインに到達したという気もあるのかもしれない。

 いずれにしろ、福田氏は、自分が小泉元首相のように、派手なパフォーマンスやはったりじみた台詞で大衆的な人気を呼べるようなキャラでないことは、十分に承知していただろうから、一部報道でも言われているとおり、自分の手で解散選挙をやるつもりなどは、はなからなかったように思える。

 おそらく彼にとって、選挙がいよいよ避けられなくなれば、自分よりも人気のある麻生に総裁の座を譲るというのは、一年前の総裁就任のときからの既定路線だったのだろう。党は党で、また前と同じ「総裁選」という茶番を盛り上げ、新首相誕生のご祝儀人気を当て込んで、そのまま解散総選挙になだれ込もうという戦略のように思える。

 もっとも、それでも前回の 「郵政選挙」 で、小泉人気だけで当選したチルドレンたちの苦戦は免れないだろう。そもそも、麻生の人気というのは、どう見ても一部の特殊な人たちのみに限定されているようだし、前の総裁選ではしなくも露呈したように、麻生という人は、狭い身内やお友だち以外には全然人望がないようである。

 さて、話は変わるが、世の中、自分にいささか過剰な信頼を置きぎみな人というのは、無意識ではあろうが、当然ながら、心のどこかに世間や他人を見下したところがある。もっとも 「それはお前だろう」 と言われたら、否定はしない。ごめんなさい。きっと、死んだ父親のせいなのだろう。

 で、そのため、なにかややこしい問題とかがどこかで起きると、そういう人は、たいして事情に通じているわけでもないのに、ついつい 「これ」 が分かっているのは自分だけ、「これ」 を理解しているのは自分だけ、などと思いがちなのである。

 たしかに、個々人にとっての 「リアルな世界」 というものは、多かれ少なかれ、みな身の回りに限られた狭い世界だから、そう考えるようになってもしかたがない場合もあるだろう。そういう人というのは、忙しさのあまり、職場だとかの身の回りの狭い 「リアルな世界」 だけに縛られていると、ついつい 「世の中の人間は、私以外みんなバカ!」 みたいに思えてくる。

 味も素っ気もない言い方をすれば、つまりは、鼻が長くて顔の赤い、ただの天狗になってしまうのだ。諺にも、「井の中の蛙がなんとか」 というのもあるくらいだし。

 だが、たいていの場合、あなたが気付いている程度のことは、他の人も気付いている。そのくらいのことは、他の人だってちゃんと分かっている。世の中はあなたが思っているよりもはるかに広いのであって、「賢い」 のはあなただけではない。むろん、皆が皆ではないにしても、あなたが考えている程度のことは、他の人だってちゃんと考えている。

 ただ、世の中には、面倒だから、いちいち言わないだけというということもある。問題がむやみやたらと拡散しないよう範囲を限定するために、あえて言わないということもある。そもそも、そんなことは分かりきったことだから、いちいち言わないだけという場合だってある。

 そりゃあそうなわけで、いちいちなにか言うたびに、1たす1は2であるよとか、2かけ2は4であるよ、みたいな話からしないといけないとなったら、面倒くさくていけない。

 「公式主義者」 を自称し、終戦の6日前に獄死した戸坂潤ふうに言えば、「公式」 というものの効用はそこにある。「公式」 というものは、いちいちその根拠から証明しなくても通用するから、「公式」 なのである。もっとも、相手がその公式を知らなかったりとか、おれはそんなもの認めないぞ、などと言い出されると、話がややこしくなるのだが。

 しかし、たとえば、高校の数学や国語の教科書に、九九の表や 「あいうえお」 の50音図が載っていないのは当たり前なのであって、それを理由に、「この教科書は欠陥品だ」 などと騒ぎ立てるバカはいない。そんなクレームをつければ、恥をかくのは本人のほうである。

 だから、そういう自分でもいささか自信過剰という自覚がある人は、なにかたいへんなことを発見したと思っても、「エウレカ!」 と叫びながら裸で風呂場から跳び出したという、かのアルキメデスのように大騒ぎする前に、その程度のことは、相手も織り込み済みなのであって、ただ面倒だからいちいち言わないだけ、と思っていたほうがよい。

 それを理解しているのは、なにもあなただけではない。草薙少佐の名言ではないが、ネットの世界は広大なのである。自分の器や自分の尺度、専門の世界で得た知識や個人的な経験による眼鏡だけで、見も知らぬ人らのことを、ああだこうだと、気軽に分かったつもりになったりしてはいけない。

 孔子様だって、2000年以上前のはるか昔に仰っているではないか。

   学びて思わざればすなわちくらし

   思いて学ばざればすなわちあやうし  と。






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Last updated  2008.09.04 03:18:11
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