飲み物まみれ。

むかし、外猫が何匹もいました。

始まりは１匹の三毛のメス。
エサをたまにあげていたら、そのうち毎日来るようになって。
そしてとうとううちの玄関の引き戸を自分で開けて
勝手に家の中で寝ている状況になっていました（笑）
学校から帰ってきたら　猫１匹分だけ戸が開いてるの。
「あぁ・・・またミーが来てるんだ」みたいな。
その子供も３匹やってきて、そのうち１匹だけが居ついちゃいました。

黒虎と呼ばれたその子は　たま～に１ヶ月近く放浪の旅に出て
ガリガリになってふらつきながら帰ってきたりしていましたが
ほとんど家猫。
父が寝てるところに　モソモソと乗りあがり
見事に口と鼻をふさいで　危うく父を殺しそうになったり
やっぱり寝ている父の腹の上で　ノビノビと寝転がって
あげくにノビノビしすぎて転げ落ちたり、と
とにかく父が大好きでした。

なんでいきなりそんな話かというと。

今日、頂き物のハムの処分について母と会話していて思い出した。

当時、年末に　お歳暮で大量のハムをいただきました。
その年の歳暮の７割がハムでした。
来る日も来る日も私たち家族はハムを食べ続けました。
ハム地獄です。
当時小学生だった私と中学生だった兄は　特に集中砲火を浴びていました。
皿に盛られる割り当てが　明らかに両親より多い。
そしてハムがある限り、他の肉料理は出てこない。
ハムのにおいを嗅ぐと　頭痛がするようになっていました。

そして　もう見るのもいやだ、と言う状況の大晦日。
ようやくハムの消費にめどがついて、私たちはホッとしていました。
気持ちもいくらか軽くなり、ご機嫌でした。
紅白を見終わり、母が年越しそばを作っているとき。
父が言いました。
「おう、そうだ。黒虎も年越しだな。　そばはやらんけどこれでも食え」

・・・その日もやっぱりテーブルに出されていたハムです。
分厚く切ってハムステーキにしていたものです。

皿に顔を近づけた黒虎は･･･
「グェーッ！」

ものすごい声を出して吐くそぶりを見せました。

そう、黒虎もハム地獄に巻き込まれていたのです。
肉だから喜ぶだろう、と毎日のように与えられるハム。
誰もが残していたハムの最終的な行き場は黒虎でした。
最初は嬉しかったはずです。　たぶん。
でも彼にも限界はきていたのです。
臭いだけで吐くほどに。

家族全員唖然。
黙りこんだ居間に、「行く年来る年」の鐘の音が響いていました。

かわいそうな黒虎･･･。　ゴメンよ、許しておくれ、と一緒に年越しそばを食べました。
（↑そば大好きだった）

その話を思い出しながらハムステーキの準備をする私に、母は言いました。
「ハムと言えば･･･」
「「黒虎だな」」　父と母のユニゾン。
それくらい、我が家で黒虎は愛されていました。
１０年以上前、　すでにヨボヨボだった彼は　すでに死期を悟っていたのか
ある日フラッと出て行き　そのまま帰ってきませんでした。
父は「死ぬところは見せたくなかったんだろう」と言っています。
野良上がりの彼なので　そうだったのかもしれません。
小さい街なのに　いくら探しても見つかりませんでした。
今でも彼は愛すべき我が家の猫です。


ちなみに。
黒虎が吐くほど嫌がった大晦日の日のハムステーキは。
元旦に　私と兄が食べる羽目になりました（爆）