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カテゴリ:マイブーム
体調をくずしまして、やすんでおりましたが、みなさんメッセージありがとうございました。
まだ本調子ではありませんが、またよろしくおねがいします。 さて、今日は11月6日の日曜におこなわれます江ノ電の『タンコロ祭り』に先がけまして、私のつたない話を書かせて頂きます。 ☆☆☆ 第19回タンコロ祭り開催 おめでとうございます ☆☆☆ すべての電車好きのお子さん、 そしてそのお父さん、お母さんに おくります 『タンコ郎の冒険 ~タン子を探しに~』 耳をすませば遠く波の音が聞こえてくる、 雲ひとつない、さわやかな秋晴れの朝のこと。 あさもやのごくらくじの車庫に一台の電車が止まっていた。 きれいに塗り替えられたグリーンにクリーム色の車体。 型こそ古いが、いまでも走ることができる。 その名を「タンコ郎」といった。 誰よりも早くに目をさましている、そんな、彼のところに 近所の顔なじみのおじいさん郵便屋さんが、やってきた。 「おはよう、タンコ郎。いつも早起きだね」 「おはよう、郵便屋さん。いつも朝からごくろうさまです」 顔に深いしわをつくり、長い眉毛をゆらしながら、おじいさん郵便屋さんはニコニコと笑った。そして、肩からさげた、ずっしりとした年代物の大きな皮のかばんから大事そうに一通の手紙をとりだしてタンコ郎に差し出した。 「今日はおまえに手紙が届いたから持ってきたよ」 「エェ!ぼくに手紙だって!嬉しいな、誰からだろう」 おじいさん郵便屋さんからさっそくもらったその手紙の送り主をタンコ郎は見た。 丁寧な字でそのひとの名前が書いてあった。 それはあさひなのじいさん電車からだった。 「あさひなじいさんからだ!」 タンコ郎は声をあげて喜んだ。 「そういえば、あさひなじいさん引退してからずいぶんたつなあ」 郵便屋さんもしみじみとつぶやくようにいった。 じつは、あさひなのじいさん電車のことをおじいさん郵便屋さんも昔のなじみでよく知っていたのだ。 実際、あさひなのじいさん電車がむかし江ノ電で活躍していたことはこのあたりでは結構有名な話だった。 「またあさひなじいさん、なんの手紙だろう」 そう言いながら、便せんに目を通した。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『タンコ郎よ、ひさしぶりじゃな。元気だったか?突然すまんな。わしはもうろくしてしまったので、むかしのことをずいぶん忘れてしまったが、昨日ふいに思い出したんじゃ。タンコ郎が一度引退したときにお前といっしょに引退してでんしゃを辞めてしまったおまえの妹がいたんじゃ。『タン子』といったかな、海が好きでお客を乗せなくなってからのんびりしたいっていっていた。タンコ郎はまた走れるようになったけど、タン子は今どうしているだろうかなってな』 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ びっくりしてタンコ郎は手紙を読みおわった。ぼくに妹がいる?…そういえば昔小さかった頃、いっしょに遊んだ女の子がいたような気がする、あの子がそうだったのか? かすかな昔の記憶をよびもどすようにしてタンコ郎はそう思った。 「郵便屋さんありがとう、ぼく妹を探しにいくよ」 そういうなり、タンコ郎は車庫から本線にむかって走り出した。 朝もやの中をかれは本線に向かって走っていった。 朝のごくらくじ駅で… 一番で入ってきたタンコ郎を見て『ごくらくじ駅君』はいった、 「おや、ずいぶんめずらしいやつがきたな、今日は仕事かい?」 おおきな目をさらにおおきくして彼は笑った。 「おはよう、ごくらくじ君、おしえてほしいんだ、ぼくに妹がいるかもしれないんだけど、きみはなにか知らないかな。今からさがしにいくところなんだ」 「妹だって?そうね、なんか昔見たようなきがする」 「たしか、そうだよ、タンコ郎と同じ1両だった女の子がいた」 駅の入口にある古いポストくんは言った。かれも昔からずっとそこにいたから記憶に残っていたようだった。 「でも今どうしているのかは分からないな、もう随分見ていない気がする」 「ありがとう、また他を探してみるよ」 タンコ郎はそういってごくらくじ駅を後にした。 やがて線路が海に出るあたりでタンコ郎を呼ぶ声がした。 「お~い、タンコ郎どうかしたか?」 その声は、空からおちてくるようなかんじにきこえた。 タンコ郎はそのおおきな声を聞くなり、びっくりしてその場で立ちどまりあたりを見回したが、誰もそこにはいなかった。 「おかしいな」とけげんそうな顔をして、それでもあちこち見ていると、 「ここだよ、タンコ郎!」 と、また響くような低い声がすぐまじかの頭の方からした。 見上げたところ山のような姿に、その声の主はいた。 「そうか、いなむら君だったのか」 海につきでた半島のようないなむら君がタンコ郎のことを優しく笑って見ていたのだ。 「タン子という、ぼくの妹がこの海のそばにいるかもしれないんだ。君はどこかで見たことはなかっただろうか?いまさがしているところなんだ」 「うーん、見たような気がするが、最近忘れっぽくってねぇ、もうとしなのかなぁ。はっはっは」 イナムラ君はこもった声で体をゆさゆさゆらして笑った。タンコ郎もそれなら仕方がないと思い、 「わかったよ、どうもありがとう。また思い出したらおしえてね」 と言って、海に向かって走りだした。 こんどは海の見える海岸沿いをタンコ郎は探して走りまわった。反対のふじさわのほうからお客を乗せた一番列車のデコサンという名の古い電車がやってきた。(注300系をイメージしてください) 「おや、今日はどうしたい、本線で逢うのは、久しぶりなんじゃない」 きまじめにドアを開けお客を乗り降りをさせながら、デコサンは言った。 「君はぼくの妹のことって知っている?ぼくと同じ1両なんだ。今朝、あさひなのじいさんから話を聞いて今さがしているところさ」 「そういえば、そんな子がいたかも知れないね、でも随分昔のことだからあまりはっきりしたことは憶えていないよ。ごめんね、今は、お客さんがいるから」 そういってからドアを閉めて、かまくらの方に向かっていった。 なかなか手がかりが見つからない、タンコ郎は途方に暮れてしまった。 そのとき、海のはるか向こうの遠くの方から低い声で 「おーい、タンコ郎、そんなところで何をしているんだい?」 といってきたのは、『えのしま君』だった。海の向こうの、遠くにいるはずなのに彼は大きな体をしているから、近くにいるようにも見えてとても不思議だった。 「ぼくの妹を探しているんだ。ぼくと同じ1両の列車で、随分昔に引退しているらしい。今どこにいるのか分からないんだ。海が好きだといっていたからこの近くにいるんだと思ってあちこち見てきたけど、誰も妹が今いるところを知っている人はいなかった。君ならひょっとして分かるかな?」 「わしは昔からここにいるけど、動けないから見えるところも決まってしまって…、わしの上にいるてんぼうだい君なら分かるかも、どうだろう、てんぼうだい君」 そういってじぶんのあたまの方をぎょろりとみた。真新しいてんぼうだい君は遠くまで声の通るかん高い声で言った。 「あたしは去年からここにいる新参者だから、あちこちよく見えるけどまだこのあたりのことはあまりよく分からないの、先代のおじいさんてんぼうだいさんならわかるかもしれないけどね」 「そりゃあ、そうだね、で、せんだいさんはいまは…」 「わからないねぇ、なにしろあんたとちがって、あたしらうごけないから…」 「それゃあ、そうだね…」 体を小さくして呟くようにタンコ郎は言った。 「でも兄妹だからなんとなく分かるけど、きっと彼女はこの海が好きで、この海岸のどこかで、海を見ているんだと思う」 今度はもう少し確かな口調で言った。誰に言っているわけでもなく、自分に言い聞かせているようにも見えた。 それでも彼は、諦めなかった。タンコ郎は本線を回ってまだ見ぬタン子という名の妹のことを線路の続く限り探してまわった。『えのしま駅君』に聞き、『ふじさわ駅君』まで行ってからまた折り返し、『かまくら駅君』のところまで行くともう探す所もなくなってしまった。もちろん、途中、反対からくる列車の仲間達にも聞いてみたのだが誰一人としてタンコ郎の妹が今どこにいるのか知っている人はいなかった。その頃にはすっかり日も暮れてしまい、タンコ郎は、うちひしがれてごくらくじの車庫に帰って行った。 秋から冬に季節は変わろうとしていた。ごくらくじの車庫のまわりの木々の葉もすっかり色ずき、柿の朱色がきれいに晴れ渡った空の青色にはえ、空気は凛(りん)としてあたりに緊張感を漲らせていた。 今日は一年に一回のタンコロまつりで朝からごくらくじの車庫は賑やかだった。電鉄のおじさん達が支度を済ませ、ファンの大人たち、子供たちがタンコ郎を見にやってきていて、みんなそんな彼のことを笑顔で迎えてくれた。ただタンコ郎だけがつくり笑顔で思いも上の空といったふうだった。 そんな彼の顔色に気づいてか、一人の小さな男の子がタンコ郎に向かって 「タンコ郎、どうしたの、なにか心配ごとでもあるの?」 と不安そうな顔をして聞いてきた。 「君は知らないと思うけど、実は僕には、タン子という名の僕とそっくりな妹がいるんだ。もう電車としては走れなくなってしまったけど、きっと海の見えるどこかにいて静かに暮らしているらしいんだ。僕は一人でいる妹に逢って、話しをしてみたいんだ。でもいろんなところで、いろんな人に聞いてまわっても彼女をなんとなくおぼえている人はいても、今どこにいるのか知っている人は誰もいなかった。」 タンコ郎は、そういって肩をすくめた。 ところが、それを聞いて、その男の子は不安そうな顔から急に明るさを取り戻し、笑顔にすらなって元気な声で 「そうだったんだ、でもぼく、その子のことを、知ってるよ。君と同じようなでんしゃなんだよね」 といった。 予想をしていなかった答えにタンコ郎は、目をおおきく見開き、びっくりして 「ええっ、ほんとうかい?それはどこなの!なんで君は妹のことを知っているの!」 と問いただした。 「ここに来る前、お父さんと一緒に行って来たから。…ここから少し離れた海のそばの公園に『107』と番号が入っていた君とそっくりな電車を見たんだ」 男の子は嬉しそうに、タンコ郎に言って聞かせた。 「うみのそばの公園だって、それはどこなの」 男の子は、今きた道をタンコ郎に教えてあげた。その公園は江ノ電の途中の小さな駅からほど近いところにあった。ただ、彼はそこまでいく手段がないことに気づいた。線路がそこまで通っていないのだ。 「そうか、そんなに近いんだ。でもこのままではその公園まで行けない」 タンコ郎はまた、しずんだ顔に戻ってしまった。たしかにこのままでは、行くことができない。 そばで話を聞いていた電鉄のおじさんも 「そこまで線路を敷くのは、ちょっと無理な話だな…。タンコ郎には悪いんだけど…」 と言って肩をたたいた。 男の子もがっかりした顔で、 「それならぼくが、タンコ郎の妹にあって君のことを話してくるよ」 といって慰めてくれた。 「ありがとう、それじゃあ、お願いするよ」 本当になんとかならないものか、その場の誰もが心のなかでそう思っていた。 …つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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