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その時、高い空から舞い降りてくるなにものかの姿がタンコ郎の目に入ってきた。 「まって、僕にいい考えがあるよ!」 と、彼は言いながらごくらくじの車庫に降り立った。 「君は確か…」 「オオギガヤツのとんびさ」 彼は爽やかな笑顔でそう言った。 「さっきの話、上から聞かせてもらったよ。っていうよりたいがいのことは空から見ていれば分かるんだ。君そっくりな女の子の電車がいるのも知っていた。もっともそれが君の妹だったというのは、初耳だったけど。僕ら一人の力ではできることは限られているけど、まわりにいる仲間達と協力しあえば、たいがいの事はできるようになると思うよ。諦めないで、一緒にやってみようよ。」 と力強くとんび君は言った。 タンコ郎はどんなことをすれば逢えるのか想像もつかなかった。でもとんび君の話しを聞いているうちに、なんとかなるかも知れない、信じてみようという気になってきたのだった。 「それに、この辺りには、たよりになる奴が多いからね、とりあえず先に仲間達に話をしてくるよ。」 とんび君は、そう言うなり、またひらりと空たかく舞い上がって行った。 かまくらの街をはさんで、東側の低い山の方へ、彼はなんのまよいもなく飛んで行った。風にのっているからなのか大きな羽をばたつかせず、空を滑っていくかのようにあっというまに遥か遠くまで飛んで行った。東の山の上あたりで二度・三度旋回してから山頂に降り立った。 その山こそ、昔からかまくらの街やしょうなんの海を見てきた『きぬばり山君』だった。暫くとんび君はなにやら彼と話をしていたが、突然、羽をかざして合図をするような仕草をしたかと思うとまたしても上空たかく飛んで行った。やがて空の一番高いところまでいくと、彼はその場にぴたりと止まり、上空からなにかを探しているようだった。そしてこれだと決めたとたん、今度は西の空にむかってまた、滑るようにして飛んで行った。 どうやら、彼は『えのしま君』に向かっているようだった。さっきと同じようにして、上空あたりまでいって、二度・三度旋回した後、ぱたぱたと降りていって、今度はえのしま君の上にいる『てんぼうだい君』に話しかけていた。 ひとしきり話しが終わると、とんび君は上空に舞い上がり、またごくらくじの上空を通り過ぎて、江ノ電の小さなトンネルのある山のひとつ向こうの谷の方へ降りていった。ただ、ここからでは、どこに向かったのかは分からない。 暫くしてからオオギガヤツのとんびは仲間を列ねてごくらくじの車庫まで戻ってきた。 「こちらは、ヤマノウチのあにい、そしてこちらはニカイドウのねえさんとんびです」 彼は、二羽のとんびをみんなに紹介してくれた。 その後、三羽のとんびは電鉄のおじさんに丈夫な金製のロープはないか聞いてきた。車庫の作業場からおじさんは、とんでもなく丈夫で長さのある金製のロープを2本持ち出してきた。 「それじゃあタンコ郎、待っていてね。」 言うが早いか、二羽のとんびは、手際よく二本あるうちの一本のロープの両端をくわえ、先程打ち合わせていたきぬばり山君とえのしまのてんぼうだい君のもとへ飛んで行った。両方の一番高い所までもっていき、きぬばり山くんとてんぼうだい君の力をかりてそのロープをこれでもか、というくらい頑丈にとめた。あっという間のできごとだった。 今度は一羽残っていた『ニカイドウのねえさんとんび』の出番だ、 「タンコ郎、もう一本のロープの先を持っていて、しっかり放さないでつかんでいるのよ!」とおおきな声で、叫んだ。 「わかった、放さないよ」 タンコ郎は、もうおまかせして力の限りロープを自分にくくりつけ放さないようにした。 「それじゃあ、いくわよ!」 そういって、ニカイドウのねえさんとんびはタンコ郎のもっているロープの反対の先をくわえ、天空たかく登っていった。その頃には、すでに二羽のとんびによってきぬばり山君とえのしまのてんぼうだい君とを結ぶロープがごくらくじの車庫の上空でピンとはって吊り橋のロープのようになっていた。ねえさんとんびはくわえていたそのロープを上からまわりこみ、既に張ってあるロープにひっかけてからトンネルのむこうの山をはさんだ谷のほうに降りていった。ねえさんとんびが見えなくなってそのロープがピンと張られた次の瞬間、凄まじい地響きとともに山の向こうからとんでもなく大きな人影のようなものが立ち上がろうとしていた。ごくらくじの車庫にいた誰もがぎょっとしてその光景をくぎずけになって見守った。その人影がこちらのほうに向きを変えて、その姿を見せた。 「タンコ郎、話は聞いた、俺が妹のところに連れていってあげるぞ。」 なんと、普段は座ったままじっとしている『でーぶつくん』がその声のぬしだったのだ。 でーぶつくんはさっきのロープの片方を手にしていた。次にそのロープを軽くぐいと引っ張ると、あっさりタンコ郎は上空高くふわりとまいがっていった。まるで透明な建物のエレベーターが屋上までいっきに上がっていったかのようだった。 「わぁ、すごい」 遊園地の、乗り物に乗っているようにタンコ郎は今度は上空から舞い降りて、ゆいがはまの海岸近くにある公園にすとんとおりることができた。おりる瞬間、でーぶつくんがもういちどロープをぐいと引っ張って衝撃を無くしてくれた、絶妙のタイミングであった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 公園の静かな一角に、その電車は停まっていた。引退したその時から、その場所で時が止まってしまったかのような静けさだった。 が、それは、突然の事だった。なにもかもが止まっていたその空間に唐突に一台の電車が空から舞い降りてきて、止まってしまっていた時計の針を動かし始めたのだ。107号という電車の目の前に108号というもう一台の電車が突然現れた。鏡の前に立って自分の姿を見るようにお互いはそっくりだった。 「やぁ、こんにちは、ようやっとここに来れたよ」 タンコ郎は言った。 「あなたは、誰ですか」 と、タン子。 「僕は、タンコ郎。君に逢いに来た。僕も最近になって分かった事なんだけど、実は僕は君のおにいさんなんだ…」 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 秋の日はすでに傾き始めていた。 それでも、二台の兄妹電車は向かい合いこれまでの長い時間の合間を埋め尽くすかのように、つもる話をし続けていた。誰もがこの光景を待ち望んでいた。誰もが二人の再会を祝福していた。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ その後、電鉄のおじさんたちのはからいで、108号であるタンコ郎は107号であるタン子のいた公園で、レールを敷いてもらい、短い距離だが走れるようになった。107号はすぐその傍らにいていつでも話のできるところにとどまっている。もちろん海だって見える。 公園に遊びに来た子供たちをタンコ郎は繰り返し乗せて走り続け、たくさんの子供たちに夢と喜びを与え続ける事ができるようになった。 今さら思うのだが、彼にとってのたからものは自分とそっくりな妹であり、そこにきてくれる子供たちであり、そして忘れてならない、ここに来るまでに一生懸命応援し、助けてくれたかれのかけがえのない仲間たちだった。 おわり ☆☆☆ 11月6日(日)より第19回『タンコロまつり』が開催されます。電車好きのお子さんのいらっしゃるご家族はぜひ参加下さると嬉しいかも… 詳しくは江ノ電のホームページをご覧下さい。(http://www.enoden.co.jp/)☆☆☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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