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小春日和の朝

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2007.10.12
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カテゴリ:短編小説

短編小説「

 日曜日というのに響子は突然、職場から呼び出しを受けた。退職給付会計処理と労働保険料の
会計処理の関
係で職場の上司から確認したいことがあるので出て来て欲しいと懇願されたのである。
  
明日は連結グループ各社の決算締めの日である。1社でも決算の遅れは許されなかった。だが、
3時からは卓也とデートすることになっていた。どうしよう、響子は卓也の携帯に電話をした。 
   「ごめん、たった今、職場に出てきて欲しいと呼び出しを受けたの。だから行けなくなっちゃった。
今度また・・」と言って電話を切ろうとした。卓也は「そんな、今日はとても大事な話し

あるって言っていただろう。だから会ってよ」と言った。だが、響子は「今日だけは駄目なの、
私の担当の仕事なので」と申し訳ない気持ちで電話を切った。
  卓也にとって今日はとても大事な日になる筈だった。それは今まで4年もズルズルと交際してき
ていた。今日はそのことに決着をつけたかったのだ。思い切ってプロポーズしようと思っていた。
 今日だけは博多の街でどうしても会う、その日を楽しみにしていた。それが、仕事で会えなく
なるなんて。卓也は、心の中からどんどん落ち着きが失われていっているのがわかった。
 
響子は博多にある大手の家電販売会社の経理担当、一方の卓也は熊本市内の有名デパートに
勤めていた。
お互いが知り合うことになったのは、4年前、卓也が博多で仕事をしている頃、
ランチを「まいづる」というお店でいつも食べていた。そこで、毎日、響子とは顔を合わせて
いた。そのお店はランチばかりではなく、夜は本格的な和食を出し、お酒も飲め、そして気さく
なマスターとの会話はとても楽しいものであった。
 ある夜、卓也が一人でそのお店で都農(つのう)ワインを飲んでいると女性の二人連れが入って
きた。なんと、一人は毎日のようにランチを食べにきている女性ではないか。
 
卓也は思い切っていつもランチで出会う女性に「このワイン、都農ワインって言うんですが、
絞り立てという感じがしてとてもよくて美味しいですよ。一杯いかがですか」声をかけてみた。
 
声をかけた女性が響子であった。「頂いていいんですか」と、響子から言葉が返ってきた。
それからも幾度となく、そのお店で会うようになり親しさが増して交際する仲となった。 
 
一年後、長男である卓也は熊本市内のデパートの試験を受けて見事合格、郷里の熊本で働く
ことになった。実家の両親も卓也の地元の就職を喜んでくれた。
 
響子と中距離恋愛となるのは覚悟していた。熊本と博多の間は高速道路を飛ばせば1時間、
特急電車でも1時間ちょっとの距離である。いつでも会おうと思えば会える距離である。  
 卓也は、響子から「今日は会えない」と電話をもらったのは自室に居たときだった。
会えない
という電話をもらった卓也、いや響子にとっても今日は特別な日となる
予定だった。
 
「今日は会うことができない」と言った響子にどうしても会いたくなった。卓也は会えないと
分っていても、ひょっとしたら会えるかも知れないと、
博多の街へ車を走らせることにした。   
 運転途中の眠気覚ましにコンビニへガムを買いに行き
コンビニの駐車場から出ようとしたその
とき、何かに左後輪が激しく当たった。卓也は車を
止め、降りて当たった箇所を確認しようとは
しなかった。後に卓也にとって、このときの車の激しい衝撃がとんでもないことになることは知
る由もなかった。左後輪は車止めの角に当たった
のだった。
 
卓也は「何で、何でなんだ、今日は俺の一大決心を伝えたかったのに」と心の中で呟きながら、
高速道路を博多の街へ向けて飛ばした。

 
先月、響子は卓也に会いに熊本へ遊びに来てくれた。二人で東バイパスからちょっと入った
瀟洒なホテルで四時間近くも激しくお互いを求め合ったばかりである。今日という日は卓也は博多
の街で食事を
して愛し合い、帰り際には響子の自宅の前で「君と会ってさよならする時、いつも思
うん
だけど帰るところが一緒ならいいな」と、プロポーズの言葉も用意していた。だが、今日は会
えないかも知れないのである。
だから今日は何時間でも響子の仕事が終わるまで待とうと卓也は心
に固く決めて車を走らせた。

 卓也には響子と家庭を持つこと、それが一番の楽しい想像であった。そのためには幾ばくかの
お金が必要と思っていた。卓也は、まだ若干28歳、周囲にはコツコツと貯蓄している者もいる
が、
卓也には中距離恋愛の費用などであまり蓄えがなかった。そこで、卓也は宝くじのロト6を
毎週のように買うことが習慣となっていた。

 卓也は博多の街に向かって九州自動車道を飛ばした。南関インターを出た頃、車は左側に急に
ンドルを取られガードロープに激突。さらにスピンして右側の中央分離隊に激突したのだった。
 翌朝の新聞の片隅に「九州自動車道で自損事故?男性一人死亡」と卓也の悲しい死を報せる
記事が掲載されていた。
 
響子は卓也がその日に響子に会いに博多の街へ向かっていたことは全く知らなかった。
「今日は会えない」という響子の言葉に博多へ来ることは諦めていたと思っていた。
 
響子に卓也の死を報せる一報が卓也の母から入った。響子は卓也の死の報せを聞き呆然となった。「嘘、嘘でしょ」と、とても信じることはできなかった。
 
卓也の訃報を聞いて悲しみの中に突き落とされた響子、そのときばかりは会社の仕事のことは
どうでもよかった。響子は心の中で事実であって欲しくないという思いを秘めて博多駅発の「リレ
つばめ」に乗って熊本へ向かった。
 
棺の中の卓也の変わり果てた姿に響子の涙でハンカチはぐっしょりと濡れた。響子のあまりの
落胆ぶりは周囲の涙を誘った。
 後日、警察から卓也の母、慶子に事故原因について調べた結果がわかったとの電話があった。
「お宅の息子さんの車は左後輪のタイヤがバーストしていました。よく調べるとタイヤに傷が
あったのではないかと思われます。想像の域も少々残ってはいますが」と。
 コンビニを出たあの時、左側後輪を車止めに激しくぶつけた、あの時のタイヤの傷。それが
バーストの原因だったのだ。
 卓也が亡くなって1年後、卓也の死のあまりものショックに母、慶子は卓也の部屋を片付ける
こともなくそのままにしておいた。だが、あれからもう1年も経ち、そろそろ部屋を片付けよう
と思い立って机の引き出しを開けてみた。手帳、響子と一緒に写っている写真などが出てきた。
卓也が愛おしくて慶子の涙は止まらなかった。  
 
机の引き出しから1冊の本、それは植物が載った図鑑であった。そういえば、卓也っていう
子供
は幼い頃から植物や昆虫に興味のある子供であった。その本をめくっているとロト6が何枚
も出てきた。卓也は買った宝くじを本の間に挟んでおく癖があった。
 
だが、もう1年以上前に買ったものばかりでどれも支払期限を過ぎているものばかりだった。
母の慶子はどうせ当たっていても換金できないけど、一応見てみようかと、過去の当選履歴を
掲載してある本を買ってきて調べてみた。すると、どうだろう1枚、数字6個が全く同じものが
あるではないか、「えぇっー」と物凄く大きな声が出てしまった。なんと、その当選金額は2億
だった。慶子は卓也の事故死が、心の底から悔やまれて仕方がなかった。
 
もし、あの事故がなければ宝くじは換金され二人は幸せな家庭生活を送っていたかも知れない
と慶子は思った。だが、もう遅い。憎むべきはあの事故であった。
 
響子も、母、慶子も、響子の「今日は会うことができない」という、電話の向こうの言葉に
卓也がコンビニを慌てて出たとき、車止めに激しく当てたタイヤの傷が事故原因であったことは、それからも永遠に知ることはなかった。
 それから暫くして慶子は、卓也の机の引き出しの中にあったロト6が当選していたこと、だが
換金期限が過ぎていたことを響子に知らせようかと迷ったが知らせることにした。
 
響子は「そうですか、私があの時、会えていれば・・・・。世の中って非情ですよね。そんな
ことがあるなんて」と、慶子へ言った。

*この短編小説(短編小説とは言い難い愚作ですが)は私の体験に基づいています。今から7年前
のある日、マンションの駐車場の車止めに左後輪をぶっつけました。ま、いいやと100メート
ルほど走らせたところでパンク。なんと、車止めで付けた傷が原因でした。それから、タイヤが
何かに当たったなと感じたときには必ず車から降りて確認するようにしています。これは九州新
幹線の博多と熊本駅間開通前に書いたものです。






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最終更新日  2018.11.12 23:18:30
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