「どっちかに片付くか、荷物ば膝の上に載せなっせ、二人掛けば一人占め
せんでよかろもん」と、熊本弁の老婦人の声が、ほぼ満員の朝の通勤バス
の車内に響きわたった。
言われた方の人が何か「具合が悪い」というようなことを言い返したらしく、
「具合が悪かって、そぎゃんとは関係なか、まちっと人のことも考えなっせ」と、
さらに険悪な雰囲気となってきた。
私は数メートル後方の席に座っていたのだが、言われた人はどうも奥の席
に荷物を置き通路側に座っていたように思われた。言われた人も老婦人であった。
バス車内での老婦人同士の今朝の激しいやりとりは今までに遭遇したことが
ないものであった。
それにしても、今、若きも老いも関係なくマナーを捨て去ってしまったのかと
思ったのだが、そのあとに乗ってきた30代後半のサラリーマン風の男性は二人
掛けの椅子の奥に座り大きな荷物を自分の膝の上に置き隣の席を空けて座った。