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1000days - 3 - 改札を抜けて、やっと人ごみから逃れられた俺は、地上に出て、フウ。と大きなため息を吐いた。腕の中でクシャクシャになった紙袋も解放してやる。中の弁当は無事みたいだ。ホッとして、俺はここから5分のところにある会社目指して歩き出した。 秋になると、俺たちは就職活動をぼちぼちし始めた。地元にも就職口はあったけど、ヤツは帰る気がさらさら無いようだったし、俺も特に帰らなきゃいけない理由がなかったから、活動し易いこっちをメインにしていた。 この頃になると、バカみたいに四六時中一緒にいたのも落ち着いて、週末のお泊まりと、たまに夕飯を一緒に食うっていうサイクルが定着してきていた。 「これ、昼間作っておいたから、ん」 俺がおでんの素で作ったおでんをハフハフして食べながら、ヤツは、あ、そういえば。と言って、さも今の今まで忘れてましたって感じでポケットからなにやら取り出した。 「……これは、俗に言う……あいか……」 「言うな」 愛鍵……基、合鍵だった。 「お前来るからって、ドア開けるために、急いで帰ってくるのも面倒だから」 なんてツンデレ。湯気で半分遮られたヤツの顔が、ほんのり赤いのは気のせいじゃないと思う。 「なんか照れますなぁ」 「失くすなよ」 口元が緩むのを、無理やり引き締めてる感じだった。 それからしばらくの間、俺の中で「乙女ごっこ」と称する遊びが流行った。ヤツのいない時間を見計らってヤツの部屋に忍び込み、掃除や洗濯をして帰るのだ。ただし、散らかったエロ本やDVDをキレイに積み重ねてタワーにしておいたり、パンツを一枚だけ洗ってベランダに干したりするんだけど。 その乙女ごっこがまさかあんな悲劇を生むとは……。 「お前、今日うちに来ただろ」 その日も俺はヤツの留守中にこっそり乙女ごっこをして、満足して家でエントリーシートを書いていた。 「行ってません」 夕方かかってきたヤツからの電話に、俺はバレバレの嘘をついてみた。今日の乙女ごっこは、自分の写真を写真立てに入れてこっそり机に飾ってくることだった。私の写真、私の代わりにいつも傍に置いておいてね(はあと)ってやつだ。 「人んちのプリンター使って自分のあそこの写真印刷するのやめれ」 「あ、俺のだってすぐわかった? さすがだなぁ」 俺は自分の息子を携帯で撮って、プリントアウトして来たのだ。メディアから直接印刷できるプリンターはやっぱり便利だな。 「おーまーえー、ちょっと来ーい」 俺は電話を切って、嬉々としてでかけた。 女の子がどうやって誘うのか、誘われたことないから俺は知らないけど、女の子を誘う時は、そうとう雰囲気とか気にする。したいときにしたいからとは言えない。 ヤツを誘う時は雰囲気とか作ると逆に恥ずかしくてたまらなくなるので、割と率直に言ってしまう。でもたまに演技はする。 「大変だー! 宇宙人が攻めて来たー! どうしよー、やつらが何か仕掛けたせいで、俺の体がおかしくなった! 助けてー普通のにんげーん!」 パソコンに向かうヤツに向かって、Tシャツを半端に脱いでジャミラのマネをしてみせる。ヤツは振り向いて俺を一瞥すると、やれやれと言っていじっていたファイルをセーブする。それからいちいち、やれやれ。と言いながら立ち上がって、俺を押し倒してパンツの中に手を入れたりする。ヤツは大人な振りをしてるから、俺の演技にノッたりはしない。あくまでしかたなくを気取りやがる。 ヤツがしたいときは黙ってひっついて来る。大抵は俺がテレビや本に夢中になっているときで、横に座ってピトッてくっついて、もぞもぞ触ってくるのだ。 「なんだよ、今いいところなんだから邪魔すんな」 俺が手を振り払うと、 「見てていいよ」 と言いつつ、Tシャツに頭突っ込んで乳首とか本気で舐めてくる。そして俺が堪えられなくなると、しょうがないなって顔でパンツの中に手を入れたりする。 案外ヤツは寂しがりやなのだ。やれやれ。 原付飛ばして25分。ヤツのアパートのドアを開けた途端、写真立てに飾ってあったはずの自分のあれの写真を、お札のように額に貼られた。 「デカすぎるせいで前が見えません」 「あほか」 テープで貼った写真をピッって勢いよく取られた。痛い。ヘラヘラ笑って額を摩っていると、腕を引っぱられた。 「そんなに写真に撮られたいなら撮ってやる」 ぐいぐい引っぱってベッドまで連れて行かれると、風呂という俺の口をふさいで黙って服を全部脱がせた。 ―――あれ、なんか怒ってる? そう思った瞬間、怖いくらい真剣なやつの顔が見えなくなった。 「え……? おにいさん??」 アイマスクをつけられた俺は、ビックリしている間に両腕までベルトのようなもので縛られた。 「ちょ、なにして……」 取ろうと思って腕をジタバタさせてたら、下のほうからカシャッとシャッターを切る音がした。緊張で縮こまった息子にヌメッとしたものが触れる。舐められながらもカシャ、カシャ。っとシャッター音は止まらない。それどころか、 「ちょっと擦っただけで、エビ反り」パシャッ とか、 「あーあ、こんな溢れさせちゃって、先っぽ光っちゃってるじゃん」パシャッ とかイチイチ実況中継しやがって、やめさせようにも腕は動かないし、俺は半泣き状態なのに息子は反応してて、いつもの半分の時間で出てしまった。 案の定、 「早ッ! 多ッ!」パシャッパシャッ って、俺は自分の腹にぶちまけた写真まで撮られて、恥ずかしいこと極まりない。けど俺にもプライドがある。反撃しようと闇雲に蹴りつけたら、顔面にヒットしたらしく、足を取られ、ケツの穴広げられて、人差し指の先っちょ入れられた。 「うえっ、ごめんなさい、もうしません」 泣いて謝ったら、やっと目隠しもベルトも取ってくれて、いつもみたいにちゃんとしてくれた。けど、その日は2人ともいつも以上に興奮してたから、気持ちよすぎて本気で腰が抜けるかと思った。 ヤツがシャワー入ってる間に、あいつは恐ろしいヤツだとアニキにメールしたら、 「知らなかったのか? あいつドSだぞ、気をつけろ」 と返信が来た。俺はその日以降、反省して乙女ごっこは自重している。 それが初めてケツに危機感を持った日。大体250日くらいの出来事。 あの時の写真は未だにヤツが隠し持っているはずだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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