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1000days - 8 - チーフや先輩にからかわれながらも、俺は定時で仕事を切り上げた。 「今日現場は寒くて辛いぜ(>_<,) 鍋しようぜ~\(^0^)/」 走って駅に向かう途中、アニキから携帯にメールが届いた。 「ごめん<<(>_<)>>今夜は何かあいつが大事な話あるとかで無理っぽい゜・(>人<)・゜」 地下にもぐりながら返事を書いていたら、思わず2、3段階段を踏み外した。 「ノд´)ノケッ このラブラブめが! 俺にデカパイ@@紹介しろって言っとけ! あー寒い寒い」 俺は携帯に向かってごめんと手を合わせると、ドアが閉まる直前の電車に滑り込んだ。息を整えながらネクタイを弛め、窓に反射して映る人ごみに焦点をぼかす。 デカパイ紹介しろ。なんて言うけど、アニキにはちゃんと彼女っぽい人がいる。それを言うと、ああ? って怪訝な顔されるんだけど、俺はアニキもまんざらではないと確信している。 確かに彼女のパイはデカいとは言えない。むしろ、ない。でもモデルみたいでカッコイイ人だ。さばさばしてる感じだし、アニキにはお似合いだと思う。まあそんなの本人が決めることなんだけどさ。 俺は一度だけ会ったことがある。というか、偶然2人でいるところに居合わせた。 お得意さんのお店に商品を届けに行った帰り、遅い昼食を摂ろうと寄ったカフェの喫煙席に2人はいた。俺は禁煙席で席がちょっと離れていたし、見慣れないスーツ姿だったから、それがアニキだとはしばらく気がつかなかった。 アニキはタバコを指に挟んだまま、外を眺めて薄く笑っていた。向かいに座る彼女の方は見ていなかったけど、彼女の話に耳を傾け、言葉を返しているようだった。彼女は短めの髪を耳にかけ、やっぱり小さく笑っていた。 彼女は、身体のラインに沿ったタイトなクリーム色のスーツを着こなしていて、できる女! って感じだったんだけど、不思議とキツイ感じはしなかった。目尻が下がり気味だからかもしれない。 2人ともスーツだったわけだから、仕事仲間だと思えなくもなかったんだけど、なんていうか、すごく恋人の雰囲気だったんだ。それも年季の入った。アニキの目が眠たそうだったって言うか、完全に警戒心を解いてる感じだったし、何より笑い方がそっくりだった。長年一緒にいるせいで、似てきちゃったって感じだ。 俺たちの前で、アニキはいつもふざけてばかりいる。ニヤリとしたり、ドラえもん笑いしたり、笑い方もふざけてる。時々物思いに耽ったりもするけれど、こんなオーラ出したりはしない。 14時少し前、彼女はチラッと時計を確認すると、ハンドバックを持って立ち上がった。それからアニキに2言3言話しかけて小さく手を振ると、先に1人で店を出て行った。 これはチャンス。と、俺は自分のスパゲティを抱えて席を立った。さり気なく彼女が座っていた席に座って、外からアニキに向かって手を振る彼女に手を振ってみる。 「おわっ」 彼女を見ていたアニキの目が、やっと俺を捕らえた。びっくりした顔で足を止めた彼女に、何でもないと手を払って、その手で俺の頭をバシッと叩く。 「ひひ」 知り合いだとわかると、彼女は笑って手を振り返してくれた。いい人だ。 「何してんだよ、仕事は?」 アニキは急にいつもの俺の知ってるアニキに戻って、氷が溶けて薄まったアイスコーヒーの残りを、音を立ててすすった。 「今日は終わり。半休で直帰。アニキこそ、仕事サボってデート?」 スパゲティをフォークに絡ませながら、俺がニヤけると、また前頭部を叩かれた。 「そんなんじゃねぇよ。次の現場の待ち合わせまで時間があったから、飯食ってただけ」「ほぉお、そのわりに、バリバリ恋人オーラが出てましたけど?」 俺は道路を早足で渡る彼女の後姿を、スパゲティ口からぶら下げながら眺めた。 「あいつはホント、そんなんじゃねぇよ」 アニキはポケットから新しいタバコを取り出して、ライターで火をつけようとして、一瞬やめて、俺の顔チラ見して、それからちゃんと点けた。 「何?」 その動きが不審で、俺は眉を潜める。 タバコに火をつけたアニキは、一度吸って、天井に向かってフーッと煙を長く吐き出すと、身を乗り出して俺に顔を近づけた。 「あいつ、男なんだよ」 俺、お前と違って、そっちの気、ないから。と、笑って二口目を吸うアニキを見て、俺は口に含んでいたスパゲティを、ボタッと落とした。 「嘘だよ」 その話をすると、ヤツはまた言ってる。と苦笑した。 15時に約束のあるアニキと別れた俺は、久しぶりにヤツの家で乙女ごっこをした。ヤツの好きなハヤシライスを、タマネギが飴色になるまで炒めて2時間くらいかけて作ってやった。俺も暇だな……。 「嘘?」 俺はハヤシライスを口に入れるヤツの顔を、思わずマジマジと見つめてしまった。 「俺も昔騙されそうになったもん。彼女、大学の先輩なんだよ。アニキと同期。その頃からそんな感じだったよ、あの2人。彼女、列記とした女だよ」 一皿目をあっという間に平らげて、おかわりを自分で盛るヤツの背中に、俺は疑いの目を向けた。 「何でわかんだよ」 こいつのことだ。実際に見たとか言いかねん。 「見せてもらった」 ほーらな。 「学生証、女に○ついてたよ」 ―――学生証。そうですか。 「何?」 「何でもね」 俺はごまかすために、俺もおかわりしよう。と声に出して、腰を上げた。 「大学の時からってことは、もう結構長いよな。遠くから見ててもなんか成熟したカップルって感じしたもん。妹にもめでたく普通の彼氏ができたんだし、隠したりしなくてもいいのにな」 俺は、普通の。に、力を入れて言った。彼女がそう言ったんだ。 「今更改めては照れくさいんだろ」 ヤツはさして興味もなさそうにそう言うと、片肘をついて、おかわりにガッつく俺を眺めた。俺はそれに気づかない振りをして、そんなもんですかね。と言ってスプーンを口に運ぶ。こっちが照れくさいっちゅうの。 「ところでさぁ、もうすぐ夏休みだけど……今年も帰んないの?」 俺は、ハヤシライスのハヤシの部分に視線を落としたまま言った。この質問は年に何回かするんだけど、いつもちょっと緊張する。 「お前帰んの?」 1泊くらいはする。と返すと、ふーん。と言って、やっと俺の顔から視線を逸らせた。声のトーンが下がった気がした。 「たまには泊まってやれば? 親、寂しがってるよきっと」 こいつは帰省の話になると変な感じになる。でも普通に親の話はしたりするから、別に仲が悪いって感じでもないみたい。 「寂しがりはしねぇよ。姉貴夫婦も同居してるし、孫の面倒もみてるしな」 そういえばこいつには姉ちゃんがいる。3つ上だったから、高校はすれ違いだったんだけど、2回くらい見たことがあった。 ―――姉ちゃんと、仲悪いのかな……。 なんてこと考えてたら、ヤツがこっち向いた。 「食わないの?」 なぜか俺はドキッとして、慌ててハヤシライスをスプーンですくった。結局帰んのかどうか聞けなかった。けど、その話をもう一回切り出す勇気はなかった。 「あ、アニキが、普段デカパイデカパイ言ってるのは、カモフラージュなんかな」 気まずい雰囲気と言うか、だんまり決められてるのが堪えられなくて、俺はまたアニキの話を再び持ち出した。 本心だろ。と、面倒くさそうな声を出しながら、ヤツがずりずりとケツ引きずって正面から横に移動して来た。気だるそうにまた片肘をついて、食べてる俺を見る。 何か妙なオーラが放たれてる気がして、皿の中のハヤシライスが減っていくに従って気持ちが落ち着かなくなってきた。 「甘味が、ちょっと、足りなかったかな」 何でもない風を装って言ってみたけれど、予感は的中し、最後の一口を食べ終わった瞬間、ヤツが圧し掛かってきた。 「すげーうまかった」 ヤツが笑ったのを見て、なぜか泣きそうになった。今日はホント、ずっとヤバイ気がしてたんだ。アニキのあんな顔見ちゃったり、ハヤシライスが上手くできて、早く食べさせたいと思ってずっと待ってたり、帰省の話持ちかけたり、こいつが喜んだり。そういうのが重なったから、気持ちが信じられないくらい高ぶってる。 「き、今日はちょっと……」 このまま突入したら、自分が大変なことになるっつうことだけは直感的にわかった。だから何とか避けようとしてたのに。 「いいじゃん、お前明日休み取ってんだろ?」 俺が急いで両手で封じた右手をあっさりと解いて、既に膨らんでる股間を撫でようとする。 「お前、休みじゃないじゃん」 俺はフリーキックのブロックみたいに、今度は自分のものをがっちりとガードした。 「ぐったりするのはお前だけだから、いいんだよ」 「ぎゃー」 触れられた瞬間に弾けるかと思った。そんな恥ずかしいことだけはできない。何とか堪えて逃げようとする俺の腰を捕まえて、ヤツはそこだけ脱がして咥えた。やだって言ったのに離さないから、ヤツの口の中に出してしまった。ごっくんするヤツを見て、もう恥ずかしすぎて、本気で泣くかと思った。 やだやだ。とか、むりむりむり。とかずっと叫んでた気がする。意識はあった。何されてるかもわかってた。だけど理解はできないって感じ。自分がどうしよう。とか、どうしなきゃいけない。とか、そういう思考回路は完全に壊れてた。 ローションでベッタベタにされて、ケツの穴とかまで触られてるのに、恥ずかしいとかは吹っ飛んで、ひたすら気持ちよさに変換されてる感じだった。自分なのに自分じゃない。勝手に身体が動いて何度も登りつめて、最後はイッたのに、もう何もでなかった。 次の日目覚めると、既にヤツの姿はなかった。暑いしだるいし恥ずかしいし、最悪だ。そう思いながら、這うようにして冷蔵庫に行き着くと、俺の好きな炭酸水が入ってて、「元気でた」ってメモが貼ってあった。 俺はその場で地団駄踏みたい気持ちになった。けど、全身が筋肉痛っぽくなってて、上手く動いてくれない。まじ最悪だ。 間違いなく人生で一番恥ずかしい思いをした真夏の昼。一日ぐでっと無駄に過ごした900日前後の出来事。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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