君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・57
山崎は、 ウキウキと圭の腕を引っぱって向かいの席に座らせると、自分は暁の横にぴったりとくっついて座った。圭の目は、隣にべったりとくっついている山崎を全く映してはいなかった。暁の透き通るように白い肌と、目の下の隈、血の跡が滲んだ手首に釘付けになっていた。 (会わなくなって一週間も経ってないのに、こんな・・・) 暁は自分を見つめる圭の視線を感じながらも、圭を見ることができず、テーブルの角を見るともなく眺めていた。目を合わせてしまえば、この場を逃げ出してしまいそうになる自分を抑える自信がなかった。 山崎がシャンペンの栓をポンッとはじけさせる。手際よくグラスに注いで、暁と圭に手渡す。 「ニシハラのおかげで、マモルさんが消えてくれたことに乾杯!」 山崎が1人グラスを上げる。 「マモルが・・・なんだって?」 暁が驚いて山崎を見る。傾いたグラスからシャンペンが零れ落ちる。山崎はシャンペンを一口飲むと口端を上げた。 「ニシハラと協力して、マモルさんを排除したんだ。マモルさんはアキラから手を引くと言ったよ。」 圭はゴクリと唾を飲み込んだ。そんなのは嘘だと言ってしまいたい衝動に駆られた。しかし、暁がなぜここに閉じ込められているのかがわからない限り、山崎を怒らせることは賢明ではなかった。 (アキラさん、こっちを見て。僕とマモルさんを信じて。) 圭は祈るような気持ちで暁を見つめたが、暁が圭を見ることはなかった。 (俺からのメールは届かなかったのか・・・?) 山崎は傾いた暁のグラスを暁の手ごと握った。それから、青ざめて固まってしまった暁の頬を手のひらで撫でる。 「それでね、ニシハラ」 山崎は暁の顔をうっとりと眺めたまま、圭に話しかけた。 「協力してもらったのに悪いんだけど、アキラは僕を選んだんだ。」 人の気持ちばっかりはどうしようもないよね。と、山崎は振り返って圭に笑いかける。 「嘘だ」 圭は思わず口を突いて出た。しまったと思ったが、山崎はさほど怒った感じはなく、逆にバカにしたように鼻を鳴らした。 「アキラ、嘘じゃないってこと言ってあげてよ。」 山崎がアキラの首に腕を絡める。暁は凍るような視線で山崎を見つめながらも、それに従った。 「こいつの言うとおりだ。さよなら、ケイ。もう会わない」 山崎が伸び上がって暁にキスをする。圭はぎゅっと目を瞑る。 ---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・58人物紹介