カテゴリ:フリーランスライター
本を上梓すると、取材や講演依頼が来る。
取材はともかく、講演依頼の際に必ずと言っていいのは、こちらを「先生」と呼ぶこと。 「高野瀬先生に是非とも講演をお願いしたく存じまして・・」等。 「先生と呼ぶのはやめてください。高野瀬さんでお願いします」私も必ずそう返す。 そもそも自分の生徒や患者ではない相手から「先生」と呼ばれて、平気な顔をしている人が苦手なのだ。 もちろん尊敬できる人になら、私も心から「先生」という敬称を付ける。 でも、そうではない人の、なんて多いこと(◎_◎;) そして学校の「先生」であっても「そうではない人」がほとんどだった…ように私は思っている。 小学校から高校までの12年間で、尊敬できる教諭だと思えたのは、たったの一人だけ。 それは、中学時代の英語のU先生。 多分、当時は30歳になるかならないかくらいだっただろう。 顔は布施明さん似のイケメンだったが、雨ではないピーカンの日でも長靴を履き、 長傘を持って登校していた、ちょっと変わった(?)先生。 そのU先生はとてもフランクで、生徒が座っている椅子に半分お尻を割り込ませて座り、発音の指導などをする。 (今なら、セクハラ、パワハラになるのかも?) 「うん、うん、いいぞ、そのイントネーション!」。褒める時はとことん褒めてくれた。 卒業後もU先生にだけは年賀状を送り続けた。 ただ、U先生は「もう俺の生徒じゃないんだし、うめさん、って呼べよ」と言って、私もそれに従った。 生涯現役の教師でいたくて昇級試験を断り続け、最後まで校長にはならず一先生を続けていた、という。 私はと言えば、仕事が忙しくなってからは年賀状以外では連絡を取ることはなかった。 ただ横浜に戻って数年経って、会ってみたいなと思い、電話をすると・・。 すでに定年退職をしていた「うめさん」は、懐かしがってくれた後、 「俺、かみさんを亡くしちゃったんだよ」と半泣きで訴える。 定年退職をしたら、二人で世界一周の旅行をしようと話していたのに、 定年退職の日のわずか数か月前に、乳癌でこの世を去ってしまったのだという。 うめさんのことを心配した元教え子たちが、毎週末にうめさん宅に集まり、 うめさんの作るカレーを食べるようになって久しい、とも言う。 「順子もいつでも来いよ。俺がそっちまで出かけてどこかでメシを食ってもいいぞ」 そう言ってくれたのに、しばらくして私の体調が悪化して、約束は流れてしまった。 うめさんは、最後まで「先生」と呼ばれるより、「うめさん」と呼ばれたがった。 ちなみに、私の友人の漫画家(何と! 手塚治虫氏の弟子)でエッセイストの石坂啓さんも、 初めて取材を依頼した時に「その先生っていうの、やめてください」と言った。 電話の向こうで猫の鳴き声がしたので「猫さんがいるんですか?」と聞いたら、そこから猫話が1時間以上続いた。 温かくて、言いたいことははっきり言えて、とても素敵な女性。今でも繋がっている(=^・^=) ・・・「先生」と呼ばれるほどのバカじゃなし・・・。 やたら「先生」と呼ばれたがる人がいるが、私はそういう人をあまり好きにはなれない。 むかしから。そして、いまでも。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年04月21日 12時17分04秒
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