変わり者 そして天才 ― ウォルター・ロスチャイルド ―
世界に名だたる大財閥ロスチャイルド家。19世紀、急成長したロスチャイルド家は、自らの財産を守るため、一族の半数を超える近親結婚を繰り返しました。近親結婚は、時には天才、時には奇人を生み出しやすいと言われます。そして生まれたのが、まさに天才的奇人ウォルター・ロスチャイルド。ウォルターは、ロスチャイルド家5代目長男。財閥の跡継ぎたるべき彼は、銀行経営に全く興味を示しません。彼の興味は動物学。異常なほどの動物コレクションを彼は始めます。莫大な財産を使い設立したトリング博物館。個人のコレクションながら、一般動物標本7,500、学生用標本305万、蔵書3万冊。ロンドンの郊外に、ガラパゴスのゾウガメを144匹も飼ったことでも有名です。ロスチャイルド家には、ふさわしくないウォルター。彼の父ナサニエルは絶望し、1908年ウォルターを銀行から解雇します。一族の疫病神となった彼は、父から無視され、しかし嬉々として動物学にますます傾倒していきます。彼は王立協会会員に選出、英国科学振興協会動物部門会長、そして大英博物館評議員を30年勤めます。彼は1,200の論文や書物を書き、5000の動物の新種発見に関わります。そして、250種もの新種の動物に、ウォルターの名が冠せられました。例えば、5本ツノのキリンにもロスチャイルドの名が与えられます。そのため、ケニアでロスチャイルドの名を名乗ると、「キリンと同じ名ですね」と言われたというほど。科学の新発見に、250もの名を残す人物は多くはありません。ロスチャイルド家の、ひとりの天才、ひとりの奇人の物語。【参考図書】 小山慶太:「道楽科学者列伝」,中公新書,(1997年)205P