なぜ猫は、足から着地できるのか?
空中に体がある時、上半身をねじると、下半身は逆にねじれます。上半身の力が、下半身に反作用を与えるためです。そのため猫の様に前足と後足で、上手く着地することはできないはずです。体操選手が空中で回転できるのは、床や鉄棒などを押して反動を付けているから。しかし猫は、何かを押したり蹴ったりしなくても、しっかり4本の足で着地できます。科学者にとって、この猫の着地は謎でした。その謎は70年に及ぶ長い研究の末、1960年代になって解き明かされました。落下する猫は、まず上半身の1/4を地面に向けて回転させます。その時、同時に下半身の1/4も、同じ方向へ回転させていました。この体の動きで、上半身と下半身が押し合います。その結果、体に働く力が相殺されます。そのうえで、猫はさらに工夫を加えていました。それは、フィギュアスケートで使われるテクニック。スケート選手が回転する時、手を伸ばせばゆっくりと、手を縮めれば速く回転します。猫は前足と後ろ足を使って、この回転速度を調整していました。まず空中で猫は、前足を縮めて、後足を伸ばします。すると、上半身は早く地面に向かって回転し、下半身はゆっくりと回ります。上半身が地面に向いたら、今度は前足を伸ばし、後足を縮めます。そうして下半身を引き付けて、地面に向かって着地します。猫の着地の秘密は、一瞬でこの動作をこなせる、柔らかな体と抜群の運動神経にありました。猫が生まれながら持つ、優れた着地能力。科学者を悩ませるほどの物理の知恵を、猫は生まれながら知っているのです。