【再録】矢沢永吉「成りあがり」(角川文庫)
この記事も、アクセスレポートに上がっていて、こんなの書いてたのをすっかり忘れていたけれど、再読してよく書けてると感じたので再録します。僕は永チャンのことはよく知らない。音楽もあんまし聴いたことがない。印象に残っているのは、1.NHKの「若い広場」で、スタジオに集まった若者が思うことを述べて、それに対して永チャンが答えてた。2.ボス缶コーヒーのCM。課長篇とか刑事篇とかあったかな。部下が何か失敗して「まいったなあ」と言いながら上司の永チャンがボスを飲む。3.「Hey, Hey, Hey」にゲスト出演した時。松ちゃん、浜ちゃんとのトーク。終わって永チャンが帰る時に松ちゃんは次のゲストの方に気をとられていて、永チャンに体がぶつかるかなにか、スーパースターに対し結果的に失礼なことをしていた(本人、全然気づいていなかったみたい)。永チャンはそれでもにこやかに袖に戻っていった。3.を見て松ちゃんの振る舞いに家内と顔を見合わせ「これ、まずいんじゃな~い?」と言ったほどだったが、永チャン人間ができてた。1.は父親と一緒に見た覚えがあるが、父と僕の一致した意見は「受け答えを見てると、永チャンってすごく頭良い。バランス感覚がものすごくいい」。だから永チャンには良い印象ばかりなのだが、食わず嫌いのところがあって未だに音楽をよく聴いたことがない。キャロルや前身バンドを作るときのメンバー集めの非情さは財津和夫と同じだが、財津和夫のファンにはなっても永チャンのファンにならなかったのは不良っぽい外見に対する警戒心だけだったろう。今の僕は外見的な違いくらいで惑わされないが、若いときはやはり修行が足りなかった。NHKの日曜朝にBSでやっている(いた?)「マイ・ブック」だったか「ブック・レビュー」という番組の特別編だったと思うが、重松清が司会をやっていて、重松清の「マイ・ブック」の最高の1冊がこの「成りあがり」。20回くらい読んだと言っていた。で僕も読んでみようと思ったが、当時は絶版。それが、最近新装版として復刻したことが判り念願かなって読んだ。この本が出た(糸井重里が取材構成しているので、糸井が聞き手となって永チャンの口述を構成したのだろう)時の永チャンは28才。激しい人生を歩んできたのだけど、そしてこの時点でまだ28才と若いのだけれど、その時々に何かを繊細に感じ取り、そこから学び吸収し、一つ一つ悟りを重ねていった、そんな風に見える。自分を飾るでもなく、いいかっこする訳でもなく、ワルぶるでもなく、達成をひけらかすでもなく、あくまでも等身大で無造作に、かろみをもった語り口。でもその一つ一つの言葉が心の汗のように迸っている。深い、人間らしい、清潔、偉大、そして優しい。やっぱり、すごく頭がいい人だ。そして自分の目標に向かって最適効率を選ぶ合理主義(これができるのも頭がいいから)をもっていながらも人間としての心、他人への感謝の念とかを忘れない。「こいつ絶対に許さなねえ。今度殺してやる」という相手が何人も出てくるが、全て許しているし、殺人なんかもちろんしてない。愛読書はカーネギー「人を動かす」で、10回もリフレインで読んだというからすごい。この本から覚えたのではなくもって生まれた或いは経験の中で自然と身につけたものだろうが、「人を動かす」に書かれているツボをよく押さえた人への対応をしているように思う。こんな風に説明するのがむなしくなってきた。とにかく読んでない人は読んでください。特に若い人、ぐれちゃってる若い人、中年、僕のように迷い多き中年、読んでください。「反撃しろ 攻撃しろ 戦いの前提は負い目がないこと 自分の手でメシを食って 誇りをもつこと」。対象は人それぞれ違えど決してできないことではない。できたからといってビッグになる十分条件ではない。だけど今日一日を永チャンのようにかっこよく全力で生きてみようか、という気にはなる。