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■ ドラマ 永久の彼方へ

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2017年12月12日
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峨眉拳 棲 陽江(す ようこう)
  ( プライドをくすぐってしまったアル・・・ )

 その声に、ジム内の男たちが一斉にこちらを睨みつけてきた。

ゾルダ
  「すまんすまん、オレら観光客、素人目には違いがあまり判らなくてよ・・・。」
ジム男 2
  「嘘を付け。そのガッチリしている体、ただの巨体だけには見えん。
   冷やかしか?」

 すると奥から、身長はソコソコで体が筋肉で引き締まった男がこちらに歩いてきた。

ジム男 3
  「キックはこのムエタイを参考にして作られた競技だ。 重みが違う。
   二人のどちらでもいい、体験していけ。 リングに上がれや。」

峨眉拳 棲 陽江(す ようこう)
  「あらら、お冠アルね。なんでこうなるアルか・・・。
   リングでしごかれるアル。 わたしいこか?」
ゾルダ
  「いや、オレが行く。」
ザウバー
  「ダメだ、オレだ。 このスポーツ、女がリングに上がっていいか判らん。
   二人と言っていた。 このジムを潰しに来たんじゃねぇ。
   ゾルダだと全員這いつくばらせちまうからな。 オレだ。」

 そう言い残し、ザウバーがジムの中に足を運びだした。
 その中々の貫録に、ジムの入り口付近に居た連中は、オズオズと道を空けていた。

ジム男 3
  「お前、いい体格だな。 何か得手を持ってるんだろ。」
ザウバー
  「まぁ空手をほんの少しな。」

    ザワザワ・・・ お、おい、空手だってよ』 ザワザワ・・・

ジム男 3
  「ほぅ、空手か。」
ザウバー
  「なぁに、入門生で見学してた控え、それに少し毛が生えたかわいい程度だ、
                                心配すんな。」

ゾルダ
  「毛が生えた?」
峨眉拳 棲 陽江(す ようこう)
  「言ってもそんな程度、という表現の一つアル。」
ゾルダ
  「ふっ、かわいい程度とはな。」

ジム男 3
  「いいだろう。 体格からすると うちの連中に見合う階級者がおらん。
   バンチューロー、お前が相手してやってくれ。」

 ジム内の少し奥に座っていた独りの男が立ち上がり、うなずいた。

ザウバー
  「お前さんじゃなくていいのか?」
ジム男 3
  「おれが相手したらお前は歩いて帰れなくなる。 起きて帰れる相手を選んで
   やった。」
ザウバー
  「気を使わんでもいい。」  ( リングに上がり、ロープをくぐりながら )
ジム男 3
  「まぁムエタイを体験していけ。」  ( ニンマリと怪しく笑った )
ザウバー
  「あぁ、そうする。」

 ザウバーは上半身のTシャツを脱ぎ捨てた。

  『おぉぉ・・・』

バンチューロー
  「むっ・・・。」

 皆が驚くのも無理はない。 あの体格でこれだけの筋肉、見ただけで圧倒される。

ジム男 3
  「お前、相当鍛えてるな。 この体格差だ、少しは強く入っても許せよ。」
ザウバー
  「構わん、手抜き無しで来い。
   折角だ、体験してーじゃねぇーか。 ムエタイの凄さをよ。」
ジム男 3
  「バンチューロー、聞いての通りだ。」
    ( ふん、階級が違ってもバンチューローは現世界チャンプだ )

 リングに上がり、深くうなずくバンチューロー。

ジム男 3
  「おい。」  一人の男に首を振りうなずいた。  すると、
       カーーン  ジム内にゴングの音が鳴り響いた。

 バンチューローがバンテージを巻いただけの手を構え、足はピョンピョンとリズム
 を取って相手の様子を伺い始めた。
 それを見たザウバー、足を前後で拳を作り、いちを構えるように体の前に置いた。

峨眉拳 棲 陽江(す ようこう)
  「あれ? 他の人、グローブしていたアル。 二人しないアルか?」
ゾルダ
  「おいっ、グローブ忘れてないか?」
ジム男 3
  「もぅゴングは鳴った。」

 横目でジム男 3 を見たザウバー。 そして目線を変えて、

ザウバー
  「別にいいぜ。」

 目の前のバンチューローにそう言い放ったのだった。

ジム男 3
  「面白い男だ。」

 ザウバーと対峙しているバンチューロー、時折片膝を曲げては戻し、再び上げては戻
 しを繰り返した後、素早い動きで前蹴りを見せた。
 サウバーは、左右でピョンピョンと跳ねるバンチューローに、体の向きを変える、そ
 れだけの動き。 そして、

バンチューロー
  「シュ、シュ、シュシュっ」

 吐き出す息と同時に左、左、右左 とジャブを繰り出す。
 ザウバーは目で追うだけで、避ける動作はしない。

 と、バンチューローはここで前蹴りをザウバーの溝打ちにしっかりと当てて蹴りぬい
 た!
      ドス ダッシュ
 『あっ・・・』

 リングを囲んで見ていたジム内の全員が声を漏らした。
 本来、目に飛び込む映像は、蹴られたザウバーが後ろに押される、後ろによろける、
 そんな姿のはず。 そう、はず、なのだが、実際に起きた事はというと、蹴ったバン
 チューローが後ろに飛んでしまった姿だった。

 まったく微動だにしないザウバー。

ジム男 3
  「ほぅ。」
バンチューロー
  ( くっ・・・ )

 バンチューローは再び軽快なフットワークでザウバーを翻弄(ほんろう)する動き、
 膝も上げては戻し、また上げては戻しと繰り返し自分のリズムを作る。
 そして!

バンチューロー
  「シュ、シュ、ハッ ハッ!」

 スピードを上げてザウバーに近づき、今度は当てにいくジャブ2発、それに間髪入れ
 ずに横からのミドルキックを右足で2発ザウバーに蹴り込んだ!
         パシ パシ ドス★ ドス★
 更に続けて左のハイキックを顔面に叩き込んだっ!

  『おぉぉ』

 ジム内に歓声が上がるも、すぐに静まってしまった。

バンチューロー
  ( な・・・、なんだこいつ・・・ )

 そこには、どれにも対応せず、打たれっ放し。 なのに顔色一つ変えないどころか、
 全く微動だにしないザウバーの姿が。

ゾルダ
  「オレならハイキックは受ける動作くらいはしてやるのによ。
   あの時のこういちの真似事かよ、まったく・・・」

ジム男 3
  「なんだと・・・」

 きつねに摘ままれたような顔でリング上を見つめるジム男 3。避けない、受けない、
 なのにダメージも無い・・・、そんな見たことも感じたこともないこのリングで起きた
 出来事を、茫然としながら立ちすくんでいた。

 シーンとするジム内。 ただ、熱気を吹き流す扇風機のモーターと羽根の風切音だけ
 が耳に届いていた。

 額から吹き出す汗、一筋の汗が頬を伝う姿のバンチューロー。

ザウバー
  「おい、終わりじゃねーぜ。 続けろや。」

 我に返ったバンチューロー、と、ここから猛烈なラッシュを掛けた!

バンチューロー
  「シュ シュ、ハッ ハッ! シュシュ シュシュシュ ハッハッハッ!
     シュシュシュ シュシュ ハッ ハッ! ハッハッハッ!」

 左右のパンチ、膝蹴りにミドルキック、ハイキック、まるでサンドバッグを相手にし
 ているかのような次々と繰り出されるみごとな攻撃のラッシュ!

  『いっけーー!』

 リングを囲む門下生にも力が入る! そして目付きを変えたバンチューロ、

バンチューロー
  「シュ シュ、ハッ ハッ! シュシュ シュシュシュ ハッハッハッ!
     シュシュシュ シュシュ ハッ ハッ! ハッハッハッ!」

 そして、
  『 ハィヤーーっ!






                              -つづく-


第4-550話 嵐の前のひととき -07 へ
 (あぁ、見学と変わらねぇ)



  ※ このドラマはフィクションです。登場する内容は、実在する人物、団体等とは一切関係がありません。

    また、無断で他への転載、使用等を堅く禁じます。





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最終更新日  2020年09月10日 13時35分34秒
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