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テーマ:読書(8524)
カテゴリ:読書
「よだかの片想い」を読んで島本理生に共感し、彼女の本を読んでみようと思った。 手始めに「ナラタージュ」。 ナラタージュとは ググって”精選版 日本国語大辞典「ナラタージュ」の解説”によれば ”ナラタージュ 〘名〙 (narratage) 映画の技法の一つ。主人公または語り手に回想形式で過去の出来事などを物語らせながら、急速に多くの小画面を連続させ構成するもの。”
とある。 ナラタージュの意味を知らなければ、長年、映画ファンをやっているけれども映画技法のひとつとしても聞いたことはなかった。今回初めて、ナラタージュの言葉を知る。 映画において回想シーンのある作品は失敗作が多い。現在と過去を行きつ戻りつして、時系列がこんがらがり、見る方も理解しがたい内容になっているので、成功例は少ない。 この本。その技法、「ナラタージュ」が題名。内容についての題名でなく、やや不思議に思うけれど、主人公の心の中の作業、高校生時代を振り返ることによって現在の想いが進行するという意味合いを持つのであろうか。聞き慣れない未知の言葉の題名ゆえ、頭の隅に残る利点はある。作者はそのことも考えたのか? 一人娘の泉は父の海外赴任に母がついていくことで、日本での一人暮らしを選ばざるを得なくなった。大学生であり、初の独り暮らしにあくせくしつつも、高校時代の恩師、演劇部顧問の葉山先生からのOGヘルプ要請に応じる。高校の後輩在校生は3人のみ。それでは芝居にならないので同期のカップルとともに参加。初めての稽古に行くと、カップルの男友達である他大学の小野君が参加していた。 週1回の稽古でどれくらいの仕上がりになるのだろうか。 作家、島本理生は演劇部であったと思われる体験者としての描写が感じられた。しかし、読後、参考文献をみると、演劇本が数冊あったので、演劇経験者でなく、それらを参考にして物語を構築したとするならば、なかなかのものだと感心した。 女子高生が高校教師に恋する話と思えども、単純なものではなく。相思相愛であっても付き合えない。踏み出さない。それは教師に別居はしているが妻がおり、妻を愛し、妻を大切にしているから。 小野君は泉に惚れる。小野君に葉山先生のことが知れる。 物語はそれだけでなく、大学進学に揺れる高校在校生の後輩たちの動向。カップルの男子の海外留学。後輩女子の事件、事故。泉と小野君の恋人関係の軋轢。 作者が女性であり、受け身である性の女性であるがゆえに被ってしまう性被害についても描かれている。その部分は私にショックを与え、考えさせた。赤裸々にベッドシーンを描くことはないけれど、それに関する点はしっかりと記述している。性被害を受けてしまった女性の恐怖、思いを真摯に感じた。 優しいとひとことで言ってはいけない葉山先生の想いと葉山先生を思う泉にシンパシイを感じた。共鳴したと言っていい。そのように感じてくれる男性がどれだけいるだろうか。 とても重要な意味を持った作品である。 ナラタージュ (角川文庫) [ 島本 理生 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.10.20 23:31:35
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