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テーマ:読書(8549)
カテゴリ:読書
作者・小池真理子がバッハの「マタイ受難曲」の中の美しいアリアから拝借したというタイトル『神よ憐れみたまえ』。彼女が思慕すると思える表題は読者にどれほど伝わるのであろうか。彼女の代表作「恋」を読み、その恋に震えおののき、とてつもなくショックを受けた記憶から、本書がものすごい本であると推察された。 いま、この文を書こうとして小説「恋」についてググるとWikipediaに“1993年から1994年にかけて何を書いても納得できない状態にあった小池が、1994年12月のある日、バッハの『マタイ受難曲』を聴いていた時に、本作の構想やテーマ、登場人物の造形が「嵐のように脳髄を突き抜けてい」き、「神が降りた」感覚のもと書き上げたもので、「作家人生の転機となったとても大切な作品」「生まれて初めて小説を書いて満足し、もういつ死んでもいいと思った作品」であると述べている。”とあった。「マタイ受難曲」は両作品に、作家・小池真理子に多大なる影響を及ぼした曲である。 さて、「神よ憐れみたまえ」は新潮社のWEB紹介では“昭和三十八年、三井三池炭鉱の爆発と国鉄事故が同日に発生。「魔の土曜日」と言われたその夜、十二歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。なに不自由のない家庭に生まれ育ち、母ゆずりの美貌で音楽家をめざしていた百々子だが、事件は重く立ちはだかり、暗く歪んだ悪夢が待ち構えていた……。著者畢生の書下ろし大河ミステリ。”とある。 昭和38年の大事故の日に美少女・黒沢百々子の両親が自宅で惨殺された。お菓子メーカーの御曹司の愛娘として何不自由のない暮らしを12年過ごしてきた百々子は迷宮入りとなってしまう夫婦殺害事件で好奇の目にさらされ人目につくことをはばかる生活を強いられることになる。導入部分から前半を読むとミステリーの事件物と思えるが、読み進むにつれてこれは不幸な事件にあった女性が紆余曲折を経て健気に生きていく物語となっていくことに気づく。ゆえにミステリーファンは興味を失くし離れていくのではないだろうか。前半、主人公と思った者が主人公でなくなり、百々子が主体となってしまうと終局はどうなってしまうかと考えてしまう。最後まで読み終えると百々子という一人の女性の生き様を描いた作品だとわかる。感じ入るものはあるけれど、無情を感じてしまう小説であった。
神よ憐れみたまえ (新潮文庫) [ 小池 真理子 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.10.24 19:48:20
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