証拠写真
先月半ばにひいた風邪から、咳が続いている。ずっとマスクをしたまま仕事をしている。熱もないし、痰も出ないし、上気道炎後に副鼻腔炎を併発し、後鼻ろうにでもなったかな、咳喘息かもしれない、と思いつつ仕事に出ていた。秋口の花粉症かもしれない。でも、変な咳である。もしかして、結核?それは、困る。何もない事を確認しなければ・・・・と気軽に胸部CTを撮ってもらった。 「何もなかったでしょ?」検査衣を着替えて、撮影室に入っていった。「・・・・・先生、入院しますか?」気の毒そうに同僚が尋ねてきた。「?!」何度も、モニターを見直した。気のせいではない。両側肺野に浸潤影と索状影が混在している。明らかに、数週前からは存在していたような陰影である。いやな事に一見、撒布影様である。間違えない。「・・・・まさか、入院なんてできないよ・・・」親切な同僚が、抗生剤を処方してくれるといってくれたのに、何故か断ってしまった。認めたくなかったのだろう。証拠写真を見せ付けられて、急に調子が悪くなったように思われた。自分の病気は診断できない。感情が入るとだめである。情けない。この程度の所見は、「陳旧過程にある肺炎」とし、通常軽いと、はいて捨てるほど診断しているではないか。先週末の採血ではCRP 0.0, 白血球は5400だった。炎症反応に乏しい。非定型抗酸菌症は除外しなければならないが、まずはマイコプラズマ肺炎だろう。証拠写真さえなければ、ちょっとしつこい咳だな・・・・程度で、”気のせい”とことにもせず、無治療で、自然治癒に至った事だろう。そして、そんなことはとてもよくあることなのだ。無理しても、自分で勝手に治してしまう。今回は証拠写真として視覚的に捕らえられてしまっただけなのである。影を見てしまったからには、何か治療しなければならない。