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真理を求めて

真理を求めて

2013.02.03
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http://satlaws.web.fc2.com/0140.html
「自民党憲法草案の条文解説 前文~40条」

で憲法について考えていたら、第34条のロジックに非常に興味深いものを見つけた。現行憲法と改正案とを引用しておこう。

<現行憲法 第34条>
「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」

<自民党改正案 第34条(抑留及び拘禁に関する手続の保障)>
「1 何人も、正当な理由がなく、若しくは理由を直ちに告げられることなく、又は直ちに弁護人に依頼する権利を与えられることなく、抑留され、又は拘禁されない。
2 拘禁された者は、拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。」

この条文に対しては解説では次のようなコメントをつけている。

「34条では正当な理由と理由告知と弁護人依頼権のうちの一部がなくても抑留拘禁され得るとも読める文言になっていますが、そこまで意図しているのかは不明です。」

この解説はその通りだと思うのだが、論理マニアとしてこの文章に引きつけられるのは、ここに書かれていることの理解が直感的には難しいのを感じる点だ。直感的には両者の違いがなかなか読み取れない。読めば読むほど分からなくなってくる。これは、この文章の書き手の論理が混乱しているのか、隠された意図を含んだ巧妙な作文なのかと言うことが非常に気になる。

僕がこの条文に強く引きつけられるのはその論理用語の使い方についてだ。それぞれ次のような論理用語が使われている。

<現行憲法>
  「且つ」「又」「~れば(なければ、あれば)」

<自民党改正案>
  「若しくは」「又は」

「若しくは」「又は」は同じ意味を持っているが、「且つ」と「~れば」は全く違う意味を持っている。同じような言葉が並んでいるのに、その論理的意味には大きな違いがあるのを感じる。論理マニアとしては、この書き換えの論理的意味を考えるのは非常に興味深い。

現行憲法では「~なければ」という言葉で仮言命題を作っている。これは、結論である「抑留又は拘禁されない」と言うことが成立する条件として、ある種のものがないという条件では、「抑留又は拘禁されない」と主張している。それでは何がないときは拘留・拘禁してはいけないと語っているのだろうか。

一つは「理由をただちに告げる」と言うことで、もう一つは「ただちに弁護人に依頼する権利を与える」と言うことだ。これが「且つ」でつながれていると言うことは、そのどちらも欠けてはいけないということを意味する。つまり理由を告げられなかったときはダメなのだ。同時に、ただちに弁護人に依頼する権利を与えられないときはダメなのだ。「理由をただちに告げられ、しかも同時に弁護任意依頼する権利を与えて」ようやく「抑留又は拘禁」の正当性が出てくるのだ。その両者があって初めて「拘禁又は拘留」が許される。これは人権を守るためにはその通りだと思う。実に合理的な規定だ。

これが「若しくは」と「又は」でつながれている自民党改正案ではどのような意味になるだろうか。「若しくは」「又は」は、何か一つでも成立すればいいと言うのが論理的な理解だ。自民党草案が、「ことなく」ではなく、「ことがないならば」という仮言命題になっていれば現行憲法草案と変わらない。仮言命題にすれば次のような論理構造になる。

<正当な理由がない>又は<理由をただちに告げられない>又は<ただちに弁護人に依頼する権利を与えられない> … これが仮言命題の前件だとする
     ↓ならば
<抑留され、又は拘禁されない>

このような論理構造を持っていれば、前件のどれか一つが成り立っていれば、それだけで抑留も拘禁も否定される。現行憲法と論理構造は同じだ。それでは、これが仮言命題ではなく「ことなく」という日本語で結ばれているときはどのように意味が変わってくるだろうか。

この論理構造を考えるのにとても時間がかかった。直感的に理解することが非常に難しい。これは、前提条件ではなく、<同時に成り立つことはない>という意味になってしまうのではないだろうか。この構造を形式論理で記号化すると

A=<正当な理由がない>
B=<理由をただちに告げられない>
C=<ただちに弁護人に依頼する権利を与えられない>
D=<抑留され、又は拘禁されない>

と考えて、

(AまたはBまたはC)かつD

となり、これは次の命題と同値になる。

(AかつD)または(BかつD)または(CかつD)

これは、A,B,Cのどれか一つとDの<抑留又は拘禁の禁止>が成り立っていれば、他の二つについてはどちらでもいいという解釈になってしまう。つまり解説が語るように、「一部がなくても抑留拘禁され得るとも読める」という解釈になってくる。A,B,Cのどれか一つが成り立つときに抑留又は拘禁が禁止されていれば、他の理由がなくて抑留又は拘禁されることが論理的には不当ではなくなってしまう。これは直感するのが難しい。

このような論理的な不備は間違って紛れ込んでしまったのか、それとも将来的にはそのような状況の時に理不尽な合法性を主張するときに使おうと意図して論理を構築したのか。意図しているとすれば、恐るべき論理能力だと思う。もう一つの

現行憲法
「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」

自民党改正草案
「2 拘禁された者は、拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。」

の違いに関しては論理的にはわかりやすい。現行憲法では、「示されなければならない」となっているので、理由が公開されることが原則であってそれが隠されることはない。だが自民党案では「示すことを求める権利を有する」とされていて、それが必ず示されるかどうかまでは保障していない。これは将来的に、どれか一つの条件が欠けて抑留・拘禁された場合、その理由を示さない場合もあると言うことをほのめかしているのではないかとも受け取れる。そこまで考えて論理を構築しているとすれば、騙されないようにするのはかなり大変だ。





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最終更新日  2013.02.03 21:19:50
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