島の不思議2
ミホラのおじょう本村の北、宮塚山の西麓に当たるところに「ミホラ」と呼ばれる沢がある。ここに若くて美しい女性が住んでいたと伝えられ、人呼んで。「ミホラのおじょう」という、元来新島では11月14,15の両日は。山にはいらない掟になつている。今から70数年前のこと。屋号を「K」と呼ばれる家の雇い人に「H」さんという女がいた。「H」さんは生まれつきオシであつたが、たまたま禁を忘れて。14日に山に入った、ところがどうしたわけか、常日頃歩きなれた道であるのに迷ってしまい、さまよい歩くうちに。とある泉の湧いてる場所に出た、この泉がいわゆる「おじょうヶ池」で。今は涸れてしまったが地名は残っている。さてさまよい出たHさんが、何気なく目をやると、反対側の。水辺で大島田に髪を結った、若い美しい女が赤ん坊の体を洗っていた。女は顔をあげると、あっけに取られているHさんに言った。「今日は山に入ってはいけない日だ、それなのになぜ来たか。直ぐに山を降りて家に帰れ」、Hさんは生まれつきのオシであつたが。持ち前の感でそれと覚った、しかし、女があまりに美しいのと。山の中という似つかわしくない場所とに驚いて、しばらくとどまつていると女は怒ってHさんの顔を両手の爪で引っかいた。Hさんは顔中血まみれになって、後をも見ずに飛ぶように山を降りた。その後、この日になると、心無き村人がしばしばHさんをからかったが。そのつどHさんは顔色を変えて恐ろしそうにしたという。思うに、Hさんが禁を破って山に入ったため。山神の怒りにふれて戒められたのか、あるいはまた、事実。「ミホラのおじょう」の魂のなせるわざであったのかも知れない。自分も小学生頃、この話を聞いた時、そんなに綺麗な女の人なら。見てみたいと思い、何人かの仲間と11月14日にその場所へ。行こうと相談していた時、近所のおばさんに相談の話を聞かれて。イシラそんなバカな事はよしよ(お前たちそんなバカな事は止めろ)。と怒られた、事もあった、小学校の高学年の頃で、そろそろ。色気づいてきた頃の話です。現在は山に入っては駄目な日のことを知らない人も多く、知っていても11月14、15日であることは。知らないでしょうし、この日も平気で山に入っている。もはや過去話として忘れ去られているのか?また中にはそんな事があるわけない、ただの作り話だという人もいる。そのわりには1月24日のカンナンボーシは信じるようで。その日の晩は飲み屋さんも休み、消防団の冬季夜警も無し。外を出歩く人もいない。カンナンボーシの話は後日書きます。