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カテゴリ:ドラマ
「卒業」 The Graduate 1967年 アメリカ映画 監督 マイク・ニコルズ 出演 ダスティン・ホフマン アン・バンクロフト キャサリン・ロス ずいぶん古い映画です。いわゆる“アメリカン・ニューシネマ”(和製英語)と言われる映画の先駆的な作品です。あまりにも有名な花嫁を強奪するラストシーンは、いろいろなところでパロディにされているので、まだ未見の若い映画ファンの人も、その存在は知っているでしょう。 “アメリカン・ニューシネマ”と言うのは、アメリカのベトナム戦争反対運動などの反体制的な社会風潮を受け、1950年代までの、勧善懲悪的なハリウッドの傾向に反抗し、若い映画人たちが、1960年代後半から70年代にかけて、反体制的な若者を主人公にした、バッドエンドな映画を多く作り、ヒットした、その映画たちのことを言います。 「俺たちに明日はない」「イージーライダー」「明日に向かって撃て」「真夜中のカーボーイ」「カッコーの巣の上で」など、今では、名作と言われている映画たちです。 そんな中で、ダスティン・ホフマン、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、デニス・ホッパー、ウォーレン・ビーティ、ジャック・ニコルソンといった名優たちや、マーティン・スコセッシ、フランシス・コッポラなどの名監督も生まれてきています。 大学を卒業して故郷に帰ってきたベンジャミン(ダスティン・ホフマン)は、次の目標を失い悶々とした日々を過ごしていましたが、ふとしたことから、父の会社の共同経営者の夫人であるMrs.ロビンソン(アン・バンクロフト)に誘惑され、つい肉体関係になってしまいます。 Mrs.ロビンソンと秘密の逢瀬を繰り返すつつ、自宅のプールで泳いだり、卒業祝いに買ってもらったスポーツカーを乗り回したりと、自堕落な日々を繰り返す息子に、両親は、早く次の目標を決めてほしいと望んでいます。 そんな中、ベン(ベンジャミンの愛称)の両親が縁談を期待している、ロビンソン家の娘のエレイン(キャサリン・ロス)が夏休みでバークレー大学から戻ってきます。ところがMrs.ロビンソンは、ベンにエレインとはデートするなと言います。 しかし、両親に強く勧められたベンは断りきれず、エレインとデートすることになります。Mrs.ロビンソンの要望をかなえたいベンは、エレインに嫌われようと、乱暴な運転をしたり、いかがわしい店に連れて行ったりしますが、優しくないベンの態度にエレインが泣き出してしまい、ベンは今までの態度を誤り、人妻と不倫していること(彼女の母親が相手なことは秘密)を明かし、実はエレインを好きなことを告白します。 2人がうまくくっついたことが面白くないMrs.ロビンソンは、デートに誘いに来たベンを待ち伏せし、問い詰めます。エレインの元へ逃げてきたベンの態度から、不倫の相手が自分の母親であることを悟ったエレインは、彼を追い出し、さっさと大学に戻ってしまいます。 まだエレインに未練があるベンは、バークレーにアパートを借り、彼女の大学に通い(もちろん学生としてではない)、しつこくプロポーズします。 そんな中で、実は彼女もまだ未練があることを知り、希望に胸をふくらましたベンであったが、ある日アパートに帰ると、Mr.ロビンソンが来ていました。 Mr.ロビンソンは、ベンと自分の妻との不倫を知り、ベンが未だ自分の娘に付きまとっていることから、自分たち夫婦は離婚し、エレインは大学を中退させ、結婚させると言います。 Mr.ロビンソンが帰った後、すぐにロレインを追ったベンですが、すでに大学は中退しており、彼女は姿を消していました。 方々探し回り、ついに結婚式場を突き止めたベンは、間一髪結婚式の場に間に合いました。 教会の式場を望む2階のガラスをたたき、エレインの名を連呼するベン、エレインもそれに呼応し「ベン!」と叫びます。 父親の制止を振り切り、母親の罵声を浴びながら手を取り合って逃げる2人、ちょうど来たバスに乗ることができ、一安心する2人でありました。 ラストがあまりにも有名な作品なので、ついあらすじを全て書いてしまいました。 しかし、ラストシーンしか知らない若い人は、周囲に反対されても純愛を貫く若い2人の愛の物語だと思っているかもしれませんが、あらすじの通り、ちょっと違います。 ベンジャミンは、はっきり言って世間知らずのお坊ちゃまです。 息子が帰ってきたとか、21歳の誕生日だとかで、広いプール付の自宅でパーティをすぐに開き、お祝いにポンとスポーツカーを買い与え、だらだらと過ごす息子に湯水のように小遣いを与える(不倫のホテル代や、バークレーでのアパート代など結構浪費していますが、アルバイトしている風ではないので、そう推測します。)など、非常に甘やかされています。 そんな彼と、逃避行してしまったエレインは幸せになれるでしょうか。 この後、お互いの両親に頼ることはもちろんできず、2人が苦しい生活を送るであろうことは目に見えています。2人が愛し合っているうちはそれでもいいでしょう。でもそのうち、生活苦から2人の愛は冷め、悲惨な結果になることは容易に推測できます。 実は、映画を作っている人たちも、そんなことは分かっているのです。 それは、ラストのラスト、結婚式場からの花嫁強奪に成功し、バスに乗り込んで一安心する2人ですが、ひとしきり笑いあった後、2人は真顔に戻り、戸惑うような表情を見せ、そしてエンディングなのです。 観客は、一時の思いで駆け落ちをしてしまったが、ふと我に帰り、これからのことに思いがいった2人の複雑な表情、と感じるはずです。実際、僕もそう思いましたし、ネットに載っている感想などを見ても、多くの人がそう思ったようです。 実は、監督がカットというのを少し遅らせたため、まだまだ俳優としては新人の2人(ダスティン・ホフマンとキャサリン・ロス)が、本当にどうすればいいのか戸惑っている表情らしいのですが、観客にそういう印象を持たせるために、わざとそのまま使ったということです。 だから、一見ハッピーエンドに見えるこのお話ですが、実はほかの“アメリカン・ニューシネマ”の作品たちと同じようなバッドエンドの物語なのです。 この物語は、前述の”アメリカン・ニューシネマ”の作品たちのように、主人公たちはアウトローではありません。どちらかというと、社会の底辺にいるアウトローたちとは真逆のブルジョワに属する若者です。 しかし、そんな将来に不安のない若者たちでさえ、親に引かれたレールに逆らい、反抗していくのだという物語であり、まさに“アメリカン・ニューシネマ”の風潮通りの作品なのです。 そして、世間に反逆している人物はもう1人います。 それは、この物語のもう1人の主人公、Mrs.ロビンソンです。 ロビンソン家とベンの家は会社の共同経営をしています。だから、ベンとエレインが一緒になり、会社を継いでくれれば、その両親たちも万々歳のはずです。 ところが、黙っていればそうなるはずのレールを自らぶち壊してしまうのが、Mrs.ロビンソンなのです。 彼女は、若かりし頃の過ちでできちゃった結婚をし、今はもう夫婦の愛は冷め、別々の部屋で寝るような家庭内別居の状態でした。そこに現れた若い男性、お世辞にもかっこいいとは言えないベンジャミンですが、アラフォーの女盛りの男日照りの身には、眩しすぎる存在だったのでしょう。つい深く考えることなく、惚れてしまったのです。 そのため、自分の娘の幸せとか、自分の安定した老後とか、まったく考えず、一時の熱情に身を任せてしまったのです。 そんな、女の性(さが)とでも言いますか、情念のようなものに従って、順風万帆の人生のレールを踏み外してしまうのでした。 タイトルクレジットを見ると、1番にアン・バンクロフトの名があり、その下にダスティン・ホフマンとキャサリン・ロスの名が並んでいます。この映画の公開当時、すでにスターだったのはアン・バンクロフトのみで、あとの2人はほぼ新人の抜擢です。しかし、普通は、新人が主役でスターがわき役だった場合、最初に来るのは新人の主役のみで、そのスターはクレジットの最後にand付きで名前が出てくるはずです。ということは、映画のスタッフも、Mrs.ロビンソンも主役であるという認識でこの映画を作っていたことがわかります。 なるほど、アン・バンクロフトが米アカデミー賞主演女優賞ノミネートなのはこういうことだったのですね。 ちなみに、この映画、その他にも作品賞・監督賞・主演男優賞(ダスティン・ホフマン)・助演女優賞(キャサリン・ロス)・脚色賞・撮影賞にもノミネートされています。受賞は監督賞のみでしたが。 そう考えると、なかなか奥が深い、映画史に残る名作であることがわかって来るでしょう。まさに、“アメリカン・ニューシネマ”の王道を行く物語なのです。 ちなみに、この映画、音楽も素晴らしいです。 BGMは、すべてサイモン&ガーファンクルの歌のみです。主題歌「サウンド・オブ・サイレンス」はもちろんのこと、「スカボロウ・フェア」や「ミセス・ロビンソン」(この曲のみこの映画の為のオリジナル)が、ベンジャミンの心の動きなどに合わせて、非常に効果的に流れてきて、美しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.04.09 06:35:39
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