今日、ここ最近勉強がうまくはかどっていないように見える生徒を呼び出して話をした。
この生徒は、学校の文化祭で中心的人物となってしまってから、勉強が手につかない。
テストでは見たこともない最低の点数を取ってくるし、私もそのお母さんもめちゃくちゃ焦っていた。
だけど、授業中に居眠りをしていることがあったりする。
指名すると、考えるより先に「わかんない」と言ったりする。
それでも彼の志望校は地域のトップ高。
本当にその高校に行きたいのか、私にはわからなくなっていた。
まして彼の将来の夢は「医者」。
中学校の勉強からも逃げようとするヤツに、人の命と正面から向き合うことはできるのか、
それも彼には話そうと思っていた。
「私ね、昔、大切な人を病気で亡くしてるんだ。
その時、お医者さんはどんなに手の施しようもない状態でも諦めないで頑張ってくれた。
だからね、医者っていう仕事につきたいオマエには諦める姿勢を見せてほしくない」
そう彼に伝えた時、思いがけない言葉がその生徒の口から出てきた。
「先生、オレは諦めないですよ。
……言いにくいんですけど、オレ、一番下の妹を病気で亡くしてて……
その時、妹にホント何にもしてあげられなかったことがずっと悔しくて……
だからオレ、医者になろうと思ったんです。」
この子は私と同じ思いを味わっていた。
大切な大切なきょうだいを亡くす痛みを知っていた。
しかも、
医者と先生、
目指す職業は違うけれど、目指す理由は共通していた。
「なにもしてあげられなかった。それが悔しい。」
私も「先生」っていう職業にどうしても就こう、って思ったのは、その気持ちが大きかった。
病気の弟に優しく勉強を教えてあげられなかった自分、
弟の心の痛みに気づいていながら、何の力にもなれなかった自分、
罪滅ぼしではないけれど、
弟と同じ年の子達の力になりたいって思った。
わかりやすく勉強を教え、
辛い気持ちがわかったら、親身に聞いてあげたい。
その子の人生の中で、少しでもいい方向に進ませることのできる人間でありたい。
彼は医者というもっと直接的な立場で、
自分の妹と同じような苦しみを味わう子どもを助けたい……そう言った。
私が生徒の前で涙を流すとすれば、1年に一度だけ。
合格発表の時だけ。
だけど、今日は抑えることができなかった。
泣きたくなかったけど、ダメだった。
その生徒と自分がリンクして、ずっと涙声になってしまった。
正直、その生徒は、私から見て志望校は諦めざるを得ない状況だと思っていた。
でも、私は諦めないことにした。
「妹さんの分まで生きることはできなくても、妹さんに恥じることのない、
悔いのない人生を送ることはオマエはできるはずだよ。」
そう、悔いのない生き方。
それがこの世に生かされた私が唯一できること。
「先生」でいる残り4ヵ月半、
この生徒と、そして他の生徒達と悔いのない受験をしよう。
頑張ろうな、Kくん!!