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だだもれ堂筆記

だだもれ堂筆記

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2013.06.10
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カテゴリ:がらくた箱
義父は1日中ほとんど目を閉じていて、たまに目は開けるがすぐに閉じてしまう。眠っているのかもう目を開けていられないのか。身動きすらほとんど無く、首から上が多少動くというか、触感の刺激に反応する程度。

意思表示ができないだけでまだ何かを考えることはできているんじゃないか、とも思うが、アルツハイマーの最終段階に入り、関節が完全に拘縮して筋肉のほとんどを失い硬く縮こまっている体の隙間にバスタオルやタオルなどをいくつも挟み、定期的に体位を変えてもらって褥瘡予防されている義父に人間らしい思考が残っているのかはもう分からない。
昨年の秋には話せなくなっていたし、目は光を失って意思表示もできなくなっていたし、自力で食事もできなくなっていた。それでもまだ車椅子に乗れたし、体も動かせた。
8ヶ月ほどでここまでになったのだ。廃用症候群、でもあるのだろう。

しばしば熱を出すようになった。口から食べ物(とろみの強い流動食)を摂ってはいるが、食べたくて食べるというのではなく、目を閉じたまま口に運ばれたスプーンに反射的に反応して口をあけ、自動的に飲み込んでいる状態。咀嚼の能力が落ちているので、しばしばむせている。これが熱や肺炎などの感染症の原因になっているのだろう、と思う。

夫と義姉が施設と医師と話し合い、この先食べられなくなっても医学的に栄養を摂取させることはせず、苦痛を取り除く処置のみで施設で最期まで過ごしてもらうことにした。一時期考えていた中心静脈栄養も、定期的に点滴針の刺し直しが必要なこと、年齢が年齢なので血管が脆くなっていて点滴で出血する場合もあること、点滴の場所から感染症にかかるケースも少なくないことを聞いて、止めることにしたそうだ。

義父に今更の医学的処置を施していくらか生きている期間を延ばすとして、それが点滴や胃に穴を開けるといった苦痛を伴うものなら、義父はそれを望むだろうか。
「もしまだ60代とかなら親父だったらどう思うかを考えるんだろうけど、もうここまで来たら考える必要は無い、我々の考えで決めていいと思う」と夫は言う。確かにそうかもしれない。人の死の局面では、残る側が何を選択しようが、選ばなかった方を選べばよかった、と後悔するものだ。

今も義父は空調が完全管理された施設の一室で、町の車や電車の音を聞きながら目を閉じているのだろう。
今、うちでは田植えの終わった田んぼを通ってくる少し冷たい風が吹いている。田んぼから聞こえてくるかえるの大合唱がうるさいほどだ。

かえるたちの声を聞きながら思う。
山間部の農家の末息子に生まれた義父は、おそらく田植えの頃かえるの声を聞いて育っているはずだ。施設からは、昔好きだった歌を聞かせては、と言われている。しかし音楽を聴く趣味の無かった義父にはこれという歌も曲も無い。それよりもかえるの合唱の方が良いんじゃないか、これを聞いたら目を開けて何か言わないだろうか。





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最終更新日  2013.06.10 23:44:35
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