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カテゴリ:オンナ心
「そう・・だったの。まだ若いでしょうにお気の毒に。アンタ昔から面食いだったもの、綺麗な女性なんでしょうね」
「ん・・惚れ惚れするくらい、いい女だよ。まるで女優みたいなんだ。そんで、すげー意地っ張りで頑固。でもマジ惚れてる」いいよな、たまには惚気たって。だってほんとにお前に惚れてんだもん。 「そう。かーさんはさー、亡くなった旦那に、猛烈アタックで落とされて結婚したからさ。アンタのそういうところ、お父さんに似てるわ。平気で人前でも愛してるって言う男なんて、そういないじゃない?日本男児たるものなのに」 「でもね、かーさん、そういうお父さん大好きだったよ。だから、最後まで看てあげられたんだから。女ってね、一番好きな人にいつでもどんな時でも、好きって言って欲しいものなんだよ。その言葉があれば辛くてもしんどくても耐えられる、それが女って生き物よ」 お袋の言葉は実感がこもってる。そりゃそうだよな、経験者だもん。 差し出された、親父の使っていたガラスの焼酎グラスに手を添える。「サンキュー・・・」呟いて正面に座った母親を見つめた。 「ねぇ、雅夢。貴方の悔いの無いように、そして彼女にも想い遺すことの無いように、毎日を丁寧に過ごしなさい。そして、出来るだけ多く側に居てやりなさいよ。看てる人間が苦しくても、病と闘っている人の苦しさと比べれば、そんなの比較にならないのだから、ね!」 「その女性と付き合うと決めたならば、何の悔いも残らぬようにしなさいよ!お父さんを看取った、母親からのアドバイスはそれだけ。さ、乾杯しよう!お帰り!アホ息子!アンタとその女性、一日でも幸せな日が多く続きますように!」 「アホ息子かよっ!!なんじゃそりゃ?そんな乾杯の音頭ないだろうよ!」軽くグラスをつき合わせ、二人で笑い合う。さすがお袋だよ。俺が美香に出来ることを、さりげなくアドバイスをくれるなんて。 そうだよな、俺が彼女にしてあげられるのは、多くの幸せの記憶を、共に作ることだけなんだから。 無言で焼酎を口にし、少し前の出来事を想い返してみる。 恩師の訃報をお袋から連絡をもらい、すぐに仙台に駆けつけた。世話になった監督の葬儀に、共に参列した俺達。遺影は生前の監督そのままで、小学校時代の厳しくも優しかった彼だった。 帰りのタクシーの中で監督の病を、涙ぐんだままのお袋が話す。 「スキルス性の胃がんで、もう、発見した時には、リンパに転移が始まってたそうよ。若いから転移が早かったのね。奥さん泣かずに葬儀でも気丈だったわ。まるで、自分の過去を見ているみたいだったな・・・」 小さな呟きのようなその言葉に、うろたえて何も言えなかったんだ。その時からお袋は、俺から何かしらの心情を感じ取っていたんだろう。監督が同じ病だったなんて。背けたい現実を、強く突きつけられたような気がしたよ。お袋が呟く。 「いつになく神妙ね、私達。今日は監督に対する弔い酒だわ。陽気な人だったから、想い出話は楽しかった事を話しましょ」 「そうだな。しかし俺、ほんとよく怒鳴られたな~!親父以外で、怖い存在が出来たのって監督ぐらいだろうな!」思わず本音を言うとお袋が軽く笑った。 その後も監督の想い出話と、生老病死について熱く語る、お袋とのつかの間の時間は、深夜二時まで続いた。 うーん!窓から入る陽の光に気がつき、軽く伸びをしてベットから起き上がった。「あ~!結構寝た!」今日はなんだか体調も、気分もいい感じ!寝室においてあるドレッサーを覗くと血色もいい!嬉しくなって軽くハミング。 今出来ること、何でもやってみたい!大好きな雅夢も今日帰ってくるし、今日は久しぶりにワインでも飲みたいな!ふとそんな事を考えていたら、持っていた携帯電話にメールが届いた。 ただいま!美香!今、新丸ビルにいるんだ!出て来ない?一緒に飯食おうぜ!俺、何も食わずに宮城出て腹ペコなんですけど~!(ノÅ`泣)・゜・。5階で待ってるから来て~! 「もーっ!!雅夢ってば!」内容に笑ってしまう!「行く行く!待っててね!」独り言を呟いてクローゼットの中の服を物色する!今日は天気が良いから明るめの服にしよう!メイクも、涼しげな薄いブルーのシャドウをつけて。 好きな人に逢える!それだけで心が弾むよ!ドレッサーに映った表情は、まるで恋する乙女みたい!ううん!私、現在進行形で恋をしてるんだ!「雅夢、大好きだよ」この言葉を呟くと、自分、もっと綺麗になれる気がするよ。 「美香!こっちこっち!」小走りに駆け寄ってくる彼女に、手を上げて合図!群衆の中にいても恋人だもん、すぐ判る。嬉しそうに腕を取る表情は、いつもより顔色もよくて、ほっと胸を撫で下ろした。 「おっ??美香、今日はいつも以上に美人だね!ちゃんと薬飲んだんだね!偉い偉い!」 「うん!頑張ったよ!雅夢がいなくてもお薬飲みました。ね、何食べる?」 「君の食べたい物でいいよ!」言葉に微笑む彼女。マジこいつ可愛い。すぐ此処で抱き締めたいくらい。今までに感じた事すらない感情だよな?客以外でこれまで交際してきた女は、年上が多かったけど、どこか自分の中で打算で付き合っている部分があったよ。 デートに行けば、全部金を出してくれる年上の金持ち。そんなのばかり選んでた。求められれば身体も応じる関係。でも人に縛られるのが嫌だったからな、適当に付き合って飽きれば携帯にも出ない。そうすれば自然に関係は消滅。 それで済んでいたんだ、女との関係は。なのに、美香は全てを変えちゃったよ。女に対する価値観全てを。なぁ、美香。君がいなくなったら、どうなっちゃうんだ? お袋が、あまりの悲しさに、親父の亡くなった直後にしか泣けなかったように、俺もなっちゃうのか?こんな想像などしたくはないのに。急に不安になって彼女の手を強く握る。 「どーしたの?雅夢?そんなに強く握ったら痛くなっちゃうよ!」でも嫌いじゃない!彼の強い力が、元気を与えてくれるようで。だけど、私の顔を見つめる瞳に、一過の切なさを感じ取った。 「お願い、不安な顔、しないで?君にはいつも笑っていて欲しいよ!」笑って!お願い。見つめたまま彼の手を私も強く握り返した。 「ごめん。俺の気持ち、美香には悟られちゃうんだな。まるで占い師みたいだ」 「そうよ!女はね、好きな人の心を、いつでも見抜こうと必死なんだから。ね、5階のヴァンルージュ・ヴァンブランに行こう!欧風料理が食べたいな~!」 「了解!じゃそこにしよう!」返事をして、美香のウエストに手を回し歩き始めた。 店内に入って席につくなり、美香は店員を呼んですぐに注文。 「四千円のコース二つ下さい。あと、シャンパン パイパー エドシック ブリュット。とりあえずそれで」 どうやら、もう注文するものは決めていたらしい。頭を下げて席を後にする店員を見送り、彼女に話し掛けた。「来た事あるの?なかなかいい店だね」 「そうでしょ?此処でよく秘書とランチとったよ。内緒だけどワインとか飲みながら」 「悪いな~!社長!仕事中酒飲んじゃ駄目じゃん!」肩を竦めていたずらっぽく舌を出す。 「秘書って男?」 「そうよ!小沢って言うの。結構いい男なんだよ」 「なーにそれ!美香!俺の前で他の男の話する?普通?」実に面白くないって!美香から他の男の話を聞くと。知らなかった、俺、結構嫉妬深いんだ。 「もー!そんな顔しないの!でも可愛い!雅夢!仕事だけの関係よ!やきもち焼かないの!」 可愛いんだから。ふくれっつらしちゃって!目は嫉妬心丸出しだし!テーブル越しにその頬をつっく仕草をすると、ちょっとだけ柔和な視線になった。やきもち焼いてくれるなんて、素直に嬉しいよ。 「ところで美香。酒飲んで平気なの?なんか難しそうな名前のワイン、注文してたみたいだけど」 あれ?そういえば、美香の素性全く知らないんじゃん?店でも何も言わなかったし。 「美香、俺、社長だったっていう以外、君の事何にも知らないんだけど?」 「ん?知りたいの?止めといたほうがいいよ!女の正体、知らない方がミステリアスじゃない?話したくないわけじゃないけど、今は教えてあげない!」(。-∀-) ニヒ♪ *゚Д゚)*゚д゚)*゚Д゚)エエエエェェェ「そりゃないよっ!!酷い女だな~!」店員が運んできた難しい名前の酒。店員は丁寧にコルクを抜き、二つのグラスに注ぎ入れる。その様子を彼女は片肘をついて、グラスに視線を送る。もう身体の関係だってあるのに、教えてくれたっていいじゃんか。あ、なんか、軽く凹んでく。 「もう!そんな顔しないで!飲もう!このシャンパンはね、マリリンモンローが溺愛した、一級品のフランス王室御用達シャンパンなの。コクがあって美味しいんだよ!飲もうよ、雅夢!」 ほんと可愛い!ちょっと笑って、シャンパングラスを持ち上げると、同じ仕草で返す彼。 「大好きよ、雅夢!乾杯!」 「乾杯!」仕草に応えて苦笑。含んだシャンパンは、とても上品な味がした。まるで美香みたいに一級品だと想う。 1. シェフおすすめオードブル盛り合せ 2. シェフのおまかせサラダ 3. 鯖の燻製 4. チーズの盛り合せ 5. 一口カニクリームコロッケ トマトソースベビーリーフ添え 6. 骨付仔羊カレーフリット マディラソース 7. 本日のパスタ 8. 本日のソルベ これが四千円のコースの八品。どれも美味しくて、腹ペコだった腹を満たしてくれた。 すっかりと平らげて、すっげー幸せな気分。目の前の美香もなんだか嬉しそう。 「雅夢の食べっぷり見てると、体育会系だって判るね。見てて気持ちがいい」 「ん?そう?お袋からは、ガツガツしてるだけって言われるけど。そろそろ出ようか?美香、何処行きたい?」 「君となら何処でも!」ウインクで返す。ほんと、何処でもいいんだ!大好きな貴方となら。 先に立ち上がり、私の横に立って手を差し伸べてくれる仕草。軽く手を添えイスから立ち上がる。 手を繋いだまま、先に立って歩く彼。まるで、父親に手を引かれている子どもみたいね、私。 レジに立ってバックから財布を取り出すと、彼が首を左右に振った。「でも」 「いいの」それ以上何も言わず、黙って一万円を店員に渡した。 オンナ心 キセキへ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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