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空想世界と少しの現実

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緋褪色

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カテゴリ:オンナ心
「ごめん・・ね。こんなのってらしくないよ。元気だけが売りなんだけどな」彼に貸してもらったハンカチを握り締めて、目元を拭う。あーあ、気合を入れてアイメイクしたのに、きっと落ちちゃっただろうな。

「ごめん、私、メイク直してくる」皇牙君の胸から身体を離す素振りをすると、背中に触れていた大きな手が離された。


「待ってますね」顔を見ないように答える。泣いた顔を見られたくないよね、こういう時。それに好きな人の泣き顔って、自身も凹んでしまう。パウダールームに向かう真里菜さんの背中を、シートに座ったまま見送った。

雅夢さんのように女性を笑顔に出来るかな、俺。一般のお客でも上手く励ませられないのに、想いを寄せている人を笑顔になんて出来るのか?人を元気にさせるのって難しいよ。雅夢さんって凄いんだな。落ち込んでた美香さんを、ほんの1時間ほどで笑顔にさせちゃったんだもん。

彼らの側に居たのに、ただ水割りを作り続ける事しか出来なかったんだもんな。どうやったら元気を与えられるのか?しっかり考えなくちゃ。ポケットの中から携帯電話を取り出して、イヤフォンを取り付けた。俺は音痴だからな、雅夢さんみたいに歌えないもん。せめて音楽で励ませたいんだ。

耳にイヤフォンを取り付け選んだのは、YUIの「Rolling star YUI Acoustic Version~」この曲なら、凹んでる真里菜さんを力強く励ませそう!「うん、これがいい」独り言を呟き頷く。


パウダールームから戻ると皇牙君が少し微笑んで、シートに座った私の耳にイヤフォンを取り付けた。流れてきたのは女性の声。「これって・・」言い掛ける唇に、彼は右手の人差し指を押し付け、無言のまま首を左右に振る。黙って聴いて欲しいってことね。目を閉じて音楽に意識を集中させた。

これってBLEACHのオープニングだったな。確かYUIって女の子が歌っているんだ。アコースティックの音が心地いい。そうか、皇牙君なりの励ましなんだね。落ち込んだ背中にバイバイバイ・・か、ほんとそうだよね。


目を閉じたままじっと聴き入る真里菜さん。俺からのエールです。不器用だから言葉じゃ上手く言えないけど、少しでも元気になって欲しいんですよ。落ち込んだとき、この歌を想い出して気持ちを切り替えていきましょう。俺もそうしてきたから。

一つの歌が、俺と貴女を繋ぐなんて素敵じゃないですか?雅夢さんが美香さんを励ます為に、GReeeeNのキセキを歌ったように、落ち込んでいる貴女に聞かせたかった。それがこの曲なんですよ!イヤフォンを分け合いながら、目を閉じYUIの歌声に耳を傾けている僅かな時間。ずっと長く続けばいいのにな。


いつの間にか口ずさんでいた私。歌えばもっと元気になれるような気がするね。ありがと皇牙君。君からの励まし、深く心に沁みたよ!曲が終わり、左耳に付けられたイヤフォンをそっと外す。
「うん、今の気分にぴったりだね!ありがとう!嬉しいよ!私からもお礼させて」


「お礼なんていいですよ!真里菜さん?んっ!!」!!!両頬を小さな手で包み込んだ彼女は、ただ唇を重ねるキスを一瞬で奪って、真っ赤な顔で俯いてしまった。驚いて瞼をパチパチさせる俺と、膝に手を置いたまま恥らったままの真里菜さん。

うっ嬉しいんですけどっ!!つられて真っ赤になるのがはっきり判った!背筋を伸ばして周りをきょろきょろと見回して、他のホスト達を見つめる!皆接客に集中してるし、幸いシートの高さで誰にも気づかれていないようだ。つまり・・・これはチャンス?だよな??

心臓はバクバクいってるのに、どこか冷静な感情。やっぱ俺も男なんだな。真里菜さんの手を取ると、弾かれたように困惑した顔を上げる彼女。手を離してされたときと同じように、彼女の両頬に触れてみる。潤んだ愛らしい瞳と、グロスをたっぷり重ねた可愛い唇に心が躍るよう!

「先にキスを奪われるなんて、想像もしなかったな」そこまで言って優しく唇を重ねあう。もう今までみたいに、君の前で僕なんて言わないよ。あれはあくまで、接客の為に自身を表す言葉なんだから。


「まぁ~!綺麗な花嫁さんだわっ!!美香さん、最高に綺麗よっ!!」
「当ったり前だろっ!!俺の選んだ女なんだぞっ!!」

もう、そんなに大きな声で言わないでよ、恥ずかしくなっちゃう!二度目のウエディングドレスを纏うなんて、考えてもいなかったよ。お化粧も綺麗にのって、鏡を覗いても健康体に見える。ありがとね、雅夢。最高のプレゼントだよ!

口には出さないけど、精一杯私を支えようとしてくれている、年下の愛しい人。私が望むことをみんな叶えてくれそう!今日は病の事は思い出さないよ、最高の晴れの日だもんね!時折、慈愛の眼差しをくれる雅夢とお義母さんの会話を、チェアーに腰掛け微笑みながら見守る。


マジ綺麗だぜ、美香。まるで少女のような微笑を浮かべる愛しい人。今を生きている命の輝きで、きらきらとオーラが煌いているように感じるよ。お前が笑顔になるなら俺、なんだって出来る気がする。たとえ死が俺達を別ちあっても、また来世で巡り合う。そう信じたから結婚を申し込んだんだぜ!

これから先は想像以上に苦しい日々だろう。でも共に頑張っていこうな!美香。想いを込めて彼女に微笑むと、飛びっきりの笑顔で応えてくれた。「そろそろチャペルに行くか!セレモニーの始まりだ!」右手を差し出し声を掛けると、ゆっくりと頷いて手を握り締めた。




「お前、出張中何処に行ってたんだよ?お前のお袋さんから、連絡がつかないって俺に電話があったんだぞ!」

日曜日の昼間、昼食の準備中に背中から投げかけられる、旦那一弥からの非難の声。息子貴俊が、実家にいるせいもあって冷静だった。「別に。たまには羽伸ばそうと思って、お友達と会ってただけよ。何か文句ある?」キャベツを切る手を止めて答える私。

「何だよ、開き直るのか?随分とふてぶてしいな。別に出掛けるなとは言わないけどさ、子どもを実家に預けてまで、行かなくたっていいんじゃないのか?」
「冗談じゃないわよ。出張中女と会ってるくせして。私にはずっとおとなしく子どもの面倒と家事、仕事をこなしていればいいとでも言いたいの?」振り返って彼を睨みつけて答えると、その言葉に絶句する旦那。随分と正直な反応だわ!

「知らないとでも想ってたの?とっくに知ってたよ。一弥に女がいるって。貴方の付き合っている女性は、とても嫉妬深い人みたいね。一日に何度も無言電話を掛けてくるわ。酷いときには一弥と別れてって、留守電に入ってたり、同じ内容のFAXを送ってきたり」

「なんなら証拠見せてもいいわよ!全部残っているから」本当はそんな事実などない。だけど本気にした一弥は、動揺したまま言葉さえ出せずに立ち尽くす。素直な人ね、相変わらず。好きだったわ、以前はそんなところがね。でももう私の中で、貴方に対する想いは消えてしまったみたい


「知って・・たのか」
「知ってたよ。何処の何さんだか知らないけどね。長く一緒に居るんだもの、気が付かないほうがおかしいわ!一弥が私と別れたいなら別れてあげる。もうとっくに未練なんてないんだから」

「ちょっちょっと待てよっ!!俺達夫婦なんだぞっ!!貴俊もいるんだ、そう簡単に離婚なんてするべきじゃないだろっ!!」
「何言ってるのっ??不貞を犯しておいて今更なによっ!!縋り付くなんてみっともないわ!男らしくないよっ!!」つけていたエプロンを外し、彼に投げつけた!
「私、実家に帰る!貴俊は一弥には渡さないからねっ!!さっさとその女のところにでも行けばっ!!もう馬鹿馬鹿しくてやってらんないよっ!!」テーブルに置いてあったバックを取り、中から車の鍵を見つけ出し、玄関まで早足で歩く。


「待てよっ!!真里菜っ!!何処に行くんだっ!!」
「一弥には関係ないでしょっ!!ほっといてっ!!」玄関まで追いかけてきて、肩を掴む彼の手を弾く!「言っておくけど、一弥の不貞が原因なんだからねっ!せいぜい、いい弁護士でも見つけておけばっ!!」よし!よく言ったぞ私っ!!ずっと我慢していたんだもん、これぐらい言わせてよっ!!唖然とした表情で玄関に立ち尽くす旦那を横目に、大きな音を立てて玄関のドアを閉めた。

「これでいい。もう後戻りなんてしない」独り言を呟き、駐車場に置かれたワゴンRに乗り込んで、エンジンを掛けた。そうだよ、これからは正直に生きたいんだ。失うものは多い。だけど得るものだって多いはずだよね!

皇牙君、私、思い切って一歩踏み出してみたよ!君の存在が私の背中を押してくれたんだよ!Rolling starの歌詞を口ずさむ。
「もう我慢ばっかしてらんないよ 言いたいことは言わなくちゃ
帰り道夕暮れのバス停 落ち込んだ背中にBye Bye Bye
君のFighting pose 見せなきゃOh! Oh!」

そうだよ、もう我慢したくない。女40歳。まだまだ枯れたくないんだよ!求めない人より、求めてくれる存在に寄りかかりたいんだ!美香、貴女もきっと同様の立場だったら、同じ決断をしたよね?運転しながら、尊敬し憧れの彼女を想う!


オンナ心 君の支えにへ





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Last updated  2008/09/18 05:29:31 PM
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