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空想世界と少しの現実

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緋褪色

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カテゴリ:オンナ心
「やっべ・・飲みすぎたぁ、美香、お前の親父さん酒強すぎだよ・・・」
「そうよ!うちの父は酒豪なんだもの。雅夢だって勝てないわ!大丈夫?」ぼやく年下の彼は気持ち悪いのか、辛そうに顔を顰める。帰りのタクシーの中でその背中を撫でる私。実家まで迎えに来てくれるなんて、嬉しくなっちゃうじゃない。

私の右肩に頭を寄りかからせて甘える仕草。大好きだよ、心から君の事が。
運転手さんに見えないところで、彼の左手を右手でぎゅっと握り締めると、大きな温かい手は更に強い力で握り返してくれた。幸せな気持ちって、こんな些細な仕草でも感じるんだよね。

君も幸せって想ってくれているの?軽い溜息をついて目を閉じている彼。軽く微笑みながら見つめる。こんなに早く連れ戻されるなんて、正直予想していなかったな。

父と雅夢の十四代の飲みっぷりに見入りながら、他愛も無いおしゃべりはとても楽しい時間だった。
弟は亡き母に似て、全くお酒が飲めない。父はそれがつまらなかったのでしょう。
雅夢の登場に顔を綻ばせ、実に嬉しそうにお酒を酌み交わしていた姿が印象的だったよ。

お父さんごめんね。父より娘が先に逝くなんて想像もしたくないよね。母のお通夜が行われた夜中、眠れなくて二階から降りてきた。襖のほんの僅かな隙間から、母の棺に向かって、涙声で話し掛ける父がいた。時折一升瓶を煽るように口に含み、左手で涙を拭っていると、背中から見ていてもはっきり判ったんだ。

逞しいはずの父の背中がとても小さく見えて、足音を忍ばせて二階に戻った10歳だった私。布団を頭から被って、隣で寝ている弟に悟られないよう、必死に声を押し殺して泣いたんだったな。
私と雅夢を玄関で見送る父は、母との書簡が入った焼き海苔の缶を手渡してくれた。

「お父さん、これは?」尋ねると、少し照れくさそうに黙ったまま右手で鼻の下を擦る。いつもそうだ、照れ隠しの時にする仕草に、中に入っているものが何かと察したよ。私と雅夢がネットブログで想いを表現しているように、父政吉と生前の母美登利は、出会った頃から恋文を交わしていたと、今日の会話で初めて知ったんだ。

玄関先で「ありがとう!今日は楽しかった!また来るね!」左に立っている雅夢も、丁寧に頭を下げて礼を言った。


「今日は突然押しかけまして、本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
「おう!若造っ!!また酒飲みに来い!気ぃつけて帰ぇれよっ!!」

彼のくせ毛を撫でながら、つい先ほどの出来事を想い返す。一つ一つの想い出を、記憶に刻み込んでいかなくちゃね。亡くなる私、これからも生きていく雅夢。そして父、弟。
看取ってくれるのは雅夢、君だけでいいの。二度も身内を見送る経験を、父と弟にはさせたくないから。再び湧き上がる吐き気を堪えながら、タクシーから見える街並みを眺め一人想う。


母を乳がんで亡くしていた私は、三年に一度くらいのペースで健康診断を受けるようにしていた。
それでも発見出来なかった、スキルス性胃がん。細胞検査でも発見されなかったし、腫瘍マーカーでも問題のある数値ではなかったのに。

自覚のないまま、胃壁を広く浸潤していくスキルス性の胃がん。このがんの怖いところは、胃壁の中を広く浸潤していくんだって。がんが始まった位置は違うけれど、お母さんと私、同じ病になっちゃったなんて皮肉だよ。

綺麗だった母が少しずつ痩せていく度、父も心配させないあまり、子どもに対し口に出せない悔しさともどかしさで、シンクロするかのように窶れ疲れて見えた。見舞う度、母の容態があまりよくないと察し、拙いながらも家事も料理も、私と弟で励まし合いながらやってきた過去。

子どもという存在がいたからこその苦しみも、当時の父にはあっただろうな。子どものいない私には判らないけれど、もしも狩野との間に子どもを授かっていたならば、ほんの少しの未来が変わっていたのかもしれないな。

雅夢、正直な私の気持ちをブログに書いておくから、君が酔いから覚めたら時間のある時読んでみてね!心の中で彼に話し掛けていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自分との闘い

自身の中に巣食った魔物との闘いは、ある日突然始まったかのように感じているよ。今でもはっきり憶えている。親友の結婚式に出席し、久しぶりにちょっと多めにお酒を飲んだ夜、帰宅後に気分が悪くなり洗面台で嘔吐。

時期的に嘔吐するタイプの風邪が社内でも流行っていた為に、私も風邪を引いたのだろうと軽く考えていた。でも代表者として休むわけにもいかず、身体を騙し騙し酷使していた毎日を送っていた。
しかし胃のむかむか感に次第に不安を覚え、医者になった中学時代仲の良かった同級生に、症状を書いたメールを送ったんだ。

産婦人科の個人病院を構えるほど腕のいい彼は、専門分野が異なるにも拘らず、日曜日と祭日しか休みのない私の事情を考慮し、自宅にまで来てくれた。
彼は私の説明に頷きながら、服の上から胃の上部に触れた時、
「ん?」と首を捻る仕草をしたんだ。
何度も何度も同じ箇所に触れる。まるで確認するかのように。

腕を組み少し考え込むような表情をして、静かに切り出したのは
「紹介状を書くから、詳しい検査をしたほうがいいよ」との言葉だったよ。
「私、もしかしてあんまりいい状況じゃないの?」引き攣りながらの笑いと精一杯の虚勢を張り、かろうじて最初に問えたのはそれだけだった。


「専門が異なるから正直なんとも言いがたい。だけど僕の研修医時代に担当した患者さんに、美香ちゃんと同じような患者さんを担当してね」目を見ないように告げて、それ以上言葉が続かない彼。

「お願い!はっきり言って欲しいの!今私の身体に起きている異変は一体何?高嶋君だから相談したんだよ!隠されるのは嫌な性分だって君はよく知っているでしょ?」それでも口を噤んだままの彼に、不安感からの苛立ちを強い口調でぶつけてしまったね。

「高嶋君!お願いだよっ!!私の身体なんだよ?知る権利があるでしょ?同級生だって意識は捨てて、普段患者さんと接しているように答えてよっ!!」困った表情で髪をかき上げる仕草は、中学校時代と同じだったね。おっとりとした穏やかで優しい彼と、ちゃきちゃきとして姉御肌の私は正反対のタイプ。

異性だけど不思議と相性が良くて、互いの恋の相談に乗ったり乗ってもらったり、プライベートで仲の良い数少ない大切な友人の一人。眼鏡の奥の瞳は私を正視せず、無言のままゆっくりとした動作で、首に掛けていた聴診器を外した。


「美香ちゃんはいつもそうだね。解らない事、知りたい事に関しては譲るって選択肢は君の中に無い。解った。じゃ、ここからは友人ではなく、医師として説明するよ」

ふうっと溜息の後、苦笑気味の口調だけど、彼の瞳は決して笑ってなどいなかった。慈しみが混ざったような、労りを感じさせる言葉の後、俯き加減だった高嶋君は、ようやく私と視線を交差させたんだよね。
その瞬間、同級生に診察して貰うという安易な手段に出た自身に、心底後悔の念が浮かんだよ。

親友に近いお付き合いをさせてもらっている同級生に、
「美香ちゃんは・・・もしかしたら胃がんの可能性があるかもしれない」なんて言葉を吐かせてしまうなんて・・・ね・・・


オンナ心 当たり前の日常へ





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Last updated  2009/01/05 06:13:41 PM
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