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カテゴリ:オンナ心
病院内にある談話室に彼を誘い、2個の紙コップのアイスコーヒーをテーブルに置くと、恐縮したように礼を言う。
首を振って無言でどう致しましての仕草。対面の木製の椅子を引き、俺も腰掛け、少しの間を置いた後こう切り出した。 「あの、美香とはずっと一緒に仕事をされてきたんですか?」問いに「ええ」たった一言短い返答。低めな声が更に寡黙な印象を与える。 少し苦手意識を抱く。どうしよう、次の言葉が出てこない、何て次の言葉を出そうか?それを察した小沢さんが、ゆっくりとした口調で話し始める。 「金井さんとは人の紹介で知り合いましてね、出会った当時はまだ起業したばかりで、彼女一人で何でもこなしていました。僕は経営コンサルタントとして、会社経営の運営相談を受ける立場にいたんです」 「その後、僕は会社から独立しまして、金井さんの秘書として彼女の許で働くようになりました。金井さんから聞いていないんですか?」 逆に問う表情は訝しげで、グサッときたぜっ!!「俺、彼女の事詳しくは知らないんです。特に会社の事に関しては全くっていう位」「そう・・ですか」答えの後、思案顔の彼。「金井さんが話していないなら、僕も止めましょう。それがマナーでしょうから」 これ以上、話す必要はないとの態度に気持ちが焦るっ!!ヤバイっ!!話が終わっちゃうよっ!!こうなったら一か八かストレートに聞くしかないっ!!「あっあのっ!!小沢さんは、美香の事・・す・・きですよね?」 一瞬眼が泳ぐのを見逃さなかった!「答えて下さい、会社関連は話さずともいいですから、美香を想っているんじゃないですか?」「何の事です?僕は既婚者ですよ!子供もいますし彼女に特別な感情など抱いていません!」 確かに、彼の左薬指には結婚指輪が光っている。だけど自分の勘は絶対当たっている筈だ!更に食い下がって問い掛けた。 「既婚者でも、他の女に惚れてしまうことなんていくらだってあるじゃないですか!小沢さん、俺は美香に、幸せな想い出を沢山作ってあげたいんです!その為なら、自身の感情を押し殺してでも彼女の感情を優先します!」こっちが偽りのない気持でぶつかれば、小沢さんも応えてくれる気がした。頼むから本音を出してくれよっ!! 再び視線が動揺の動き。「美香が大好きだから、幸福感を一つでも多く抱いてほしいんだ・・・」コップを握る両手が小刻みに震え、返事を待つ間が、とてつもなく長い時間に感じてしまう! 思案後に一つ溜息をつき、彼は眼鏡の中心を軽く上げ、軽く左右に頭を振った。「私も訊ねていいですか?」「ええ、どうぞ」 「金井さんの容態は?」 問い掛けに、黙ったまま首を左右に振って、うな垂れるしか出来ない。長く深い溜息を漏らした後呟くように話し始めた。 「そう・・ですか・・・大好きか、いい言葉だな。若いっていいですね。ストレートに感情を表現できる遠藤さんが羨ましいですよ」 「ご指摘の通り、遠藤さんには申し訳ないが、美香さんに特別な感情を一方的に抱いていましてね、ずっと・・・長い間」 「そう、なんですね。美香は知っているんですか?」自嘲気味に笑うのが答えだと感じ取る。 「いつでも気がつかない振りでね、共に既婚者でしたから。でも若い君に取られる位なら、もっと早く気持ちを伝えておけばよかったと今は思います」 表情が曇った。ずっと想ってきた人に気持ちを伝えられず、苦しんできたのかも。同じ男としてみるならすげー切ないよ。少し同情を抱く。 少し思案の後、問う。「それならば小沢さん、美香に自分の気持ちを伝えてやってくれませんか?」声に戸惑いの表情。 「俺の事は気にしないでいいですから、彼女の気持ちだけを優先してやってくれませんか?多くの人に愛されたって記憶を残してあげたいんです!」 「そんな、貴方は嫌じゃないんですか?自分の妻が他の男性に好きって言われる事に?」 「本音ではすげー嫌です!けど、解釈を変えれば、俺の美香はそれだけ魅力的な女だってことですよね?それなら誇りに想えます!」 「俺の美香・・ですか。本当にストレートですね。羨ましいですよ。もしも、美香さんに告白をして、彼女の気持ちが揺れてしまってもいいんですね?」 小沢さんの牽制。「美香はそんな事位じゃ揺らぎませんよ!」軽く睨んで答えると、眼鏡を直して口の端で笑みを浮かべた。見つめ返すその瞳強い光を放つ!この人、自分が考えていたより計略家なのかもしれない?不安を覚え心拍数が一気に上昇するっ!! 「大層な自信ですね。遠藤さん。美香さんの好みの男性は長身で細身のインテリ。眼鏡の似合う男性だってご存知でしたか?これでも学生時代雑誌のモデルもやっていましてね」 勝ち誇ったようににやりと笑うヵ゙━━ΣΣ(゚Д゚;)━━ン!!マジかよっ!!この人そのまんま当てはまるじゃねーかっ!!よく見ると俳優の反町隆史に似ているしっ!!美香が眼鏡好きなんて初めて聞いたぞっ!!自分で投げかけた提案を、俺は酷く後悔し始めていた。 その後は小沢さんに話の主導権を握られ、美香の入院日数、退院日を聞かれたり、おまけにデートの日取りまで一方的に決められる始末!善い人なのかと油断した俺が甘かった。まるで狙っていたかのように、状況をひっくり返されるなんてっ!! 把握してなかった、美香と共にいた切れ者の男という事実、未熟さが判断を狂わせたとしか思えないよ! 彼と別れて、先ほどの光景を思い出し更に気持ちが滅入っていく。病室に続く廊下を歩きながら気持ちは暗く沈んだまま。完敗だっ!あーっ!!バカだっ!!ホント俺のバカやローっ!! 美香の好みなんて知らなかったしっ!!つーか、どんだけ彼女の事を解ってあげられていたんだろうか?今日の自分、大人の小沢さんと比べて、断然幼い振る舞いに酷く自己嫌悪! 美香にだってちっせー男に映ったろうに!くあっ!!マジ情けねぇ!!(>д<;) 病室に戻りづらくて、ドアの前まで来て手を掛けたものの、さっきの言い合いを思い出し部屋に入るのを諦めた。ごめん、不安と情けなさでお前の顔を見つめられないよ。深く溜息をつき、今歩いてきた廊下を引き返す。憂鬱はすぐに晴れそうにないみたいだ・・・ オンナ心 過去へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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