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カテゴリ:本の感想 作家別-な行
時は1899年。トルコの首都スタンブールに留学中の村田君は、毎日下宿の仲間と議論したり、拾った鸚鵡に翻弄されたり、神様同士の喧嘩に巻き込まれたり…それは、かけがえのない時間だった。だがある日、村田君に突然の帰還命令が。そして緊迫する政情と続いて起きた第一次世界大戦に友たちの運命は引き裂かれてゆく…爽やかな笑いと真摯な祈りに満ちた、永遠の名作青春文学。 29冊目 「西の魔女が死んだ」で心がとっても暖かくなったので手にした梨木香歩作品。2冊目になります。 ですがちょっと雰囲気が違いました。題名の滞土録の土は土耳古ートルコの滞在記となり、 主人公村田はトルコ帝国の招聘をうけ文化研究のために留学しています。 住まいは英国夫人が営む下宿で、女主人のディクソン夫人、使用人のムハンマド(トルコ人)、村田と同じ下宿人のオットー(ドイツ人)、ディミトリス(ギリシャ人)という国も違えば宗教も違うというエトランゼの集まりの中、わずかな異文化間の摩擦も感じさせながら、互いに納得できないことには瞑目し認める所は認めて暮らしています。 ムハンマドは下宿人達をエフェンディと呼びます。それは学問を修めた人物に対する敬称だそうですが、彼にとっては同居している異教徒という意味合いも含んでいるかもしれません。 物語はそのムハンマドが拾ってきた鸚鵡(オウム)の話から始まり、「胸をうつ鸚鵡の一言で幕を閉じます。 話が淡々とすすむむせいか当初はちと私向きじゃないなと頁がなかなかすすみませんでしたが、ドラマチックなことは結構おきます。つい笑ってしまうのが村田の部屋の壁の話です。下宿の館は遺跡を発掘した時にでてきた神々の祭壇でした。発掘してはみたもののありすぎて収蔵場所にもことかき、祭壇ー墓といった捨て置くにもはばかれる石を建築材料として政府が払い下げたというしろもの。 おかげで村田の部屋は夜になると壁がほんわかと光り、渡土した同胞を世話したお礼にしかたなく受け取った稲荷のお札や根付け、鑑定のために預かったアヌビス神の像を持ち込むと神様同士の喧嘩が始まってしまいます。それに怯えるどころか神様同士うまく共存できるよう諭せとアドバイスをもらったり、しまいにはぶち切れて神々にがなる描写が楽しいです。 異国に身を置くなか、日本人らしく和を尊ぶ(もしくはその場で迎合する)姿勢ばかりでは相手になめられることを知り尽くし虚勢をはったり、時には目の前の人を異なる規律、思考、習慣にすむ異国人だから相容れなくて当たり前だと開き直りながらも相手を認めることを忘れない姿は日本人としてとても共感を呼びます。 突然の帰還命令を受けて帰国し、切迫した世界情勢の中、友達の安否を心配し、トルコへの最訪と遺跡発掘をしたいと願う村田に届いたのはかっての同居人達の死の知らせと奇しくもその友達の死に立ち会ったオウムでした。ムハンマドと共に戦場を駆け、トルコから日本への長旅をしてボロボロの剥製のように見えるオウムに胸を痛めながら村田は囁きます。「ディスケ・ガウデーレ(楽しむ事を学べ)」と。 それはオウムから教わったラテン語でした。 それにオウムが答えます「友よ」と 甲高く叫びます。 瞬間読んでた私の思いは「こんちくしょう~」でした。 たらたら読んでたのに この一言で目に涙がにじんで胸がいっぱいになりました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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