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カテゴリ:本の感想 作家別-た行
人質は350万キロリットルのビールだ―業界のガリバー・日之出麦酒を狙った未曾有の企業テロは、なぜ起こったか。男たちを呑み込む闇社会の凄絶な営みと暴力を描いて、いま、人間存在の深淵を覗く、前人未到の物語が始まる。 犯罪が犯罪を呼び、増殖し続けるレディ・ジョーカー事件。犯人たちの狂奔と、それを覆い尽くす地下金融の腐臭は、いつ止むのか。そして、合田雄一郎を待つ驚愕の運命とは―高村文学の新たな頂点を記す、壮大な闇の叙事詩、ここに完結。 上巻がなくてなぜいきなり下巻かといいますと 3年前の秋、やっぱり同じ症状で入院した時(その時は1週間ですみましたが)、処置が済んで経過を見ていた時に読み切ったのがこの作品の上巻まで、 ようするにその後退院した後はまるっきり下巻にふれなかったということです。 なぜかって上下2段で443ページもあったり 上巻の最後で我らが合田雄一郎警部補が颯爽と拉致監禁後に解放された城山社長の前に身辺警護として登場し 一層盛り上がったとおもったら下巻の冒頭は新聞記者の久保の視点から延々と話が続いたりするし~と自分に言い訳してましたが、 入院してじっくり読んでしみじみ思いました。 私ってばこの下巻読むために入院したんじゃなかろうかと、、、(そんなの嫌です) なぜかといいますと 早々に痛みもひいてただただ、暇な入院生活なのに この下巻読むのにまるまる4日間必要だったんですよ! 奥さん!(ちょっ誰に向かって) 速読はできませんが 読むのは結構速いはずなのに そして面白くなくてたらたらではなく、 毎ページ面白くて面白くてじっくりうなるように読みすすめてページをめくってもめくっても 残りのページが減らない 一言”憎い”作品です。 ほめてます。 題材は1984年におこったグリコ・森永事件に着想を得た異物混入による企業恐喝を題材とした作品で 舞台はビール会社となっています。 上巻の出だしはすでに他界した日之出麦酒社の元社員の 日之出社にむけての長い手紙から始まりそれには部落問題による 不当解雇についての疑惑に触れられています。 この一件が時にとるにたらなく扱われ、 また禍根として人の人生を左右し、 そして利用されていきと この作品の重要な要素となっていきます。 今、上巻は手元にないので思い返せるのは 犯人グループ、レディ・ジョーカーの発案者である物井惣一の 人生が淡々と描かれ、犯行を思い立ち、競馬仲間を誘い 実際の犯行を決心する過程が実にスリリングかつ説得力のあるものでレディ・ジョーカー結成!という一種のカタルシスさえ覚えるほどの興奮を感じたのを覚えてます。 それで石原プロ制作の映画はどんなに渡さんが物井役を がんばっても半田刑事を演じた吉川晃司の演技が絶賛されても 犯行を思い立ちグループを結成するまでのの説得力 展開のあまりの弱さに見る気が失せてしまったのを 思い出します。 それから日之出麦酒会社代表取締役城山恭介の拉致監禁から解放冒頭の手記にからめた第二の脅迫へと物語はすすみ、 城山社長の身辺護衛と犯人グループとの秘密裏の接触を 見張るため”マークスの山”で初登場した合田が城山社長の前に姿を現しワクワクどきどきしたところで上巻終了。 下巻第4章では犯人グループの動向は警察番の久保記者、拉致誘拐監禁の被害者城山社長、不正な株操作をはかっているグループの動向をさぐる根来記者、合田の視点からそれぞれ語られます。 それぞれが”組織”という枠組みのなかでぎりぎり自分の持てる 裁量、考え、行動をおこしながら、やはり”組織”の壁の前に もがいている姿がうつうつと紡がれていきます。 高村節ここにありという感じです。 そして第5章 崩壊では 犯人グループの首謀者とも言える物井清三と、 計画実行担当であり、胸に抱える鬱屈がどこかしら 合田に似たものを抱えながら合田を憎悪し正反対の方向へと それを解放することを望んだ刑事半田の視点も加わり、 ビール会社恐喝事件の膨らみ、思いも寄らない形の崩壊への軌跡が語られていきます。 自分たちが犯した”犯罪”が闇社会へと飲み込まれ無きものとされそうになっているのも知らずに警察の追尾の渦中に己の中にある悪鬼と向き合うことを余儀なくされる犯行グループと、 ”事件”の確信に近づきながら”組織”の決断にむけての”時”をまつ日々の中、精神を瓦解させていく合田、 商品であるビールと過去の過ちを人質にとられ自分が心血をそそいで働いた企業の恐喝に加担してしまいながら引責退職すらままならぬ城山、記者達の苦悩など 人が人として生きられない”組織”の中で這いずり回りながら職務以上のことをこなし、事件を白日のもとにひきだすために組織のほころびをみつけようとあがく姿はもう病的な感じで (いや~好きだけど) 絶対に身近にいてほしくないというか家族にはいらないって人たちばっかりなんですが 切れば血が流れるというか真実味のある人物描写がすごくて、そこに、つかの間笑顔や安堵の表情が垣間見える瞬間 胸が高鳴ります。 事件の内容も('95年~'97年連載)、恐喝こそないのでしょうが食品に対する異物混入ということで昨今の事件を彷彿とさせ、企業がいかにそのような事態に対処していくのかが克明に描かれていて大変興味深いです。 物語の終焉は実に苦く、実際のグリコ事件もある側面ではこうだったかもしれないと信憑性も感じるものとなります。 ”マークスの山”文庫改訂版の出版を機にそこそこ作品を読みあさった(リヴィエラ~とか晴子~とかはまだ)高村作品 久々でしたが、圧巻の一言でした。 またにゅう~い(ブルブルブル)じゃなくってまとめて時間取れる時になにか読んでみたくなりました。やっぱりリヴィエラかな? 鬱屈していながら正反対の方向に向かいそして磁石みたいに引き寄せられる合田と半田両刑事の話とか、合田のストーカーぶりとか、ずっごく楽しみにしていた 噂の浮かばれない義兄の告白が 期待した形と全然ちがって ちょっとだけがっかりして 合田のにぶちんぶりに笑った話もかきたいのですがものすっごく長くなっているので機会があった時に書きます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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