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湖の彼岸 -向こう岸の街、水面に映った社会、二重写しの自分-

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2006年05月07日
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カテゴリ:政治・社会学文献
第3章 政治の限界
 政治学と経済学が分裂しているのが問題だ。なぜなら両者が固有の領域に固執している限り、国際世界の複雑な構造をとらえきれないからだ。
 政治学の限界は、長らく、ほぼ20世紀のすべてにわたって、その対象が国家だけに限定されてきたことにある。だが今、国家の中心的役割は揺らいでいる。安全保障構造は、かつての主要な目的であった他国からの攻撃を防ぐという安全の確保だけでは成り立たず、あらゆる種類のリスクに対応するべく再定義を迫られている。これらの安全保障をすべて国家が担えるはずもなく、私企業と責任を共有し始めた国家もある。また、外交・国防と並ぶもう一つの国家の主要な役割が国家貨幣の管理であるが、国家の金融的独立性というものさえ、見せかけとなりつつある。
 にもかかわらず、「主権を持つ国家」が依然として国際政治の主たる分析対象となっているのはなぜか。政治学と経済学が、共存に至っていないからだ。今やわたしにとって、諸価値を配分する権威を持つのは国家だけではないということが明らかになった。他者の意志からの支持を必要とする行為・計画はすべて政治なのである。この広義の政治の定義によって、今まで分離していた国内政治と国際政治、政治システムと経済システムを結びつけて分析することに成功するだろう。私は政治経済学をつぎのような基本的等式として示そう。
 A(n)多数の権威/M(n)多数の市場+M(n)/A(n)=V(n)価値ミックス/Soc(n)多数の社会集団
 *多数の権威[multiple authorities]=A(n) 多数の市場[multiple markets]=M(n) 安全保障、富、正義、自由の変数ミックス=V(n)
 *価値配分の享受は多数の社会集団=Soc(n)の間で行われる
 これにより(1)「アクター」問題が片づく。国家以外の様々なアクターを取り込めるようになる。(2)政治経済学が問題にすべき課題が広くなる。世界社会という発想を取り込むことができる。
 国家から市場へのシフトは、超国家企業のパワーと影響力の増大を招いた。この構造変動を、「誰が多能な機能や責任を行使し、その結果がいかなる効果を持つかを問う方法」によって検討していこう。


第4章 政治と生産
 国家が消滅するとは誰も本気で予想していないが、国家から世界市場へのパワー・バランスのシフトは、領土的国家から非領土的国家へと、市民社会に関係したあるパワーのシフトを生み出した。またそれは、いかなる権威も存在しないある種の無法地帯の発生を導いた。
 国際的生産にはこの50年ほどの間に、三つの主要な変化があった。(1)20世紀初期において、大半の超国家企業が鉱山とプランテーション農業分野で操業していたが、今日では、企業のほとんどは、加工、製造、さらにはサービスまでに多角化している。(2)国際的生産に従事する企業が今や多くの国に起源を持つという意味で、真に「多国籍」化した。超国家企業はアメリカ的現象にとどまらない。ヨーロッパ、日本、台湾、インド、香港など、多くの国の現象となっている。(3)グローバル生産におけるトレンドは、製造業からサービス業へと転換した。全世界経済で今世紀後半に生産され追加された富の三分の二は非物質的なものである。このシフトによって、国家パワーのネオ・コーポラティスト的な基礎が浸食されている。これら三つのトレンドが領土国家から世界市場へとしたがって超国家企業へと、パワーの実質的なシフトをもたらすことはまず間違いない。
 生産構造に関する四つの仮説を提示しよう。(1)国家は、産業、サービスと貿易の所有と支配から、さらには諸技術の研究開発の方向づけといった従来参加していた領域から撤退している。多くの国において、国有企業の民営化が続けられている。(2)先進工業諸国から貧困途上国への富の再配分において、国家よりも、また国際援助機関よりも、ここ10年に超国家企業の方が多くのことを行ってきた。(3)労使関係の重要な領域で、利害対立の解決や少なくともその管理における主要な役割を、超国家企業が国家から奪うようになった。(4)金融面において、企業は政府による企業利益に対する課税をにわかに逃れるようになり、また企業自体がいくつかの点で利益徴収者としてまた課税権者として行動するようになっている。企業は「税回避者」である一方、「微妙な徴税機関」である。
 超国家企業が各国の政府を乗っ取ったわけではないが、そのパワー領域を侵害しているのは確かである。


第5章 国家の現状
 世界経済と社会の構造変化による形態変化を、国家が遂げつつある。かつて国家が行ってきた特権的な主張と要求をすることは、もはや不可能だ。国家は、いくつかある権威のうちの一つの源泉になりつつあり、パワーと資源を限られつつある。
 1,国防 多くの社会で外国による侵略のリスクが最低であり、暴力から社会を守るために制度としての国家が必要だという認識は、以前より低い。 2,通貨価値の維持 通貨維持の責任はいまや個別国家的であると同時に連帯責任でもある。 3,開発戦略 すべての政府が資本主義の型を収斂させている。貿易は自由化され、公共事業は民営化され、外国企業は歓迎されるという方向に。 4,景気対策 ケインズ主義的反循環政策はもはや一国レベルでは機能していない。 5,福祉 国家の福祉的介入が限界に達し、国家財政がもはや福祉拡大を許容し得なくなるだろう。 6,課税 政府は超国家企業からも、個人に対する課税からも、支出額の増加分をまかなうことができない。 7,貿易の管理 国際貿易の内容は企業によって、またそれに対する市場からの反応によって決められ、貿易の方向も需要と競争的供給の結果で決まる。 8,インフラストラクチュア 政府は、民間事業への対処において以前より交渉上弱い立場にある。 9,国家独占 国家がこれまで選ぶことのできた独占的特権の付与やナショナル・チャンピオンといった選択肢を選ぶ際のコストが急激に上昇した。 10,暴力 グローバルな安全保障構造では、小さな武器からミサイルにいたるまで、国家の有効な管理下に置かれたことがない。
 これらの原因は究極的には世界市場にある。国家の権威の及ぶ領域が社会面、経済面で縮小しており、かつて国家の権威が専権的だった領域が今や別の場所、別の権威筋によって分有されつつある。


第1部 理論的基礎・終






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最終更新日  2006年05月11日 22時20分51秒
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