soul-eye

「ま、別に殿が謝らなくても」
すっかり気勢をそがれた十太夫であった。
「細谷。本日より武一郎と名乗れ。伊達家副参謀とする」
慶邦の思いを図りかねながら十太夫、
「武一郎はお断りします。僧籍ですからね」
と、もう一度意地を張った。
「これ、これこれ細谷」
「煩い。とっとと竜宝寺に飯と酒でも届けやがれ。大事な伊達の意地にそれくれえやっても罰はあたるめえ」
十太夫はいきなり重臣に怒鳴った。
「殿。副参謀の命は受けますが、何をすれば宜しいのでしょうか」
その十太夫の言葉を聞き、慶邦はニッコリした。
「すまぬの、細谷。実はお主でなければできぬことだ。他の者では頼りにならぬでな」
「と、殿」
またまた口を挟んだ重臣に、今度は慶邦が、
「まだおったのか。早く竜宝寺に酒と食事を持っていかぬか」
と怒鳴った。
「武一郎、いや、細谷よ」
武一郎と本当は呼びたかったのだ。慶邦は十太夫の話が出るたびに名を与えたいと思い、ずっと武一郎と考えていたのだ。
だが、完全に固辞された。この際は、十太夫の意地を通させようと慶邦は思っていた。
「榎本をな、早く石巻から出してくれぬか。それと、星を、額兵隊を何とかしてくれぬか」
この殿様は優しいのだ。そして、決して利己の人ではない。
額兵隊を男として散らしてあげたいというのだ。保身を考えれば、額兵隊も解散させ、徹底恭順するのが本当である。
「榎本にな。話を通してくれ」
「はっ」
十太夫はヘロヘロの代表かと思っていた慶邦の心根を知り感動した。
「我が愛馬を使え。奥州一早いわ。これは嫌とは言わぬよな」
笑顔で言う慶邦を見て、何としてもこれ以上奥州に戦火を広げまいと、
十太夫決意を新たにした。


人気ブログランキングへ
くる天 人気ブログランキング