|
カテゴリ:現代史
意表を突くような事件だった。17日、中東の破綻国家レバノンで、多数のポケベルが一斉爆発、12人が死亡し、約2800人が負傷した(下の写真の上=ベイルートの市場で爆発、被害者は左下に倒れている、下の写真の下=負傷者を医療機関に運ぶ救急車)。 ◎スマホのハッキングを警戒したヒズボラが5000台導入 ポケベルとは、スマホ時代の現在からすれば、前世紀の遺物という感じだが(実際、日本ではどの通信会社も一般向けサービスを停止している)、これには事情がある。レバノンのシーア派イスラム原理主義テロリスト「ヒズボラ」の戦闘員たちが身につけていたものだ。 ヒズボラ戦闘員がポケベルを携帯していたのは、指導者のナスララがイスラエルによるスマホのハッキングを警戒し、戦闘員たちにスマホの代わりにポケベルを使うように指示していたからだ。ヒズボラは数カ月前にポケベル約5000台を導入し、戦闘員に一斉配布した。ポケベルでも、文字データは送れるから、連絡手段としては有効だ。 ◎巧みな作戦:ヒズボラのみのピンポイント攻撃 今回の事件はイスラエルの起こしたことはほぼ間違いないが、だとしてイスラエルが、このことに目を付けたのは、戦争の一形態を新たに開いたと言える。 それにしても、あらためてイスラエルの情報機関モサドの諜報能力の高さには恐れ入るばかりだ。まずモサドは、ヒズボラ上層部がポケベル配布を決定したことを察知し、しかる後にヒズボラが発注した海外製造工場を探知し、さらにその製造現場に秘かに入り込み、ポケベルに爆発物を埋め込む――という一連の工作をいとも簡単に達成できたのである。 これは、巧妙・効果的なな戦術だ。ポケベルを持っているのは、ほぼヒズボラ戦闘員だ。ポケベルが爆発するようにすれば、周囲に被害を及ぼさずに所持者のヒズボラ戦闘員をピンポイント攻撃できる(子ども1人が死亡と伝えられるが、これは子どもがいたずらに手にしていた可能性が高い。またイランの駐レバノン大使も失明の重傷を負ったと伝えられるが、これもヒズボラとの密接な関係を持つテロ国家イランなら大使も持っていたということだろう)。 ◎製造過程で一斉爆発の仕組みを埋め込む しかしポケベルなど、今も作っている企業があるのか。 欧米メディアの報道によると、台湾のメーカー「ゴールド・アポロ」社がハンガリーにある取引先企業に設計・製造を委託し、ヒズボラに販売したという。 このことを、モサドが察知し、前述のように約5000台の製造過程で爆破指令を受信する基盤と50グラム程度の爆発物を内部に埋め込んだ。これは、巧妙な装置で、どのような手段でも検知するのは難しいというわれる。 17日にイスラエルのネタニヤフ政権はヒズボラへの攻撃を強めることを決めているから、ポケベル爆弾は、その一環だろう。それにしても、イスラエルのこのような作戦「工作」には舌を巻かざるを得ない。 ◎翌18日はヒズボラの使う日本製トランシーバーが一斉爆発 通信機を使った攻撃は、翌日18日も続いた。レバノン各地でヒズボラ戦闘員が使用しているトランシーバーが一斉爆発した。この爆発で、20人が死亡、450人以上が負傷したという(写真)。 こちらのトランシーバーには「ICOM」と「日本製」のラベルが貼られていた(下の写真の上=爆発したICOM製トランシーバー。現在同社の販売している製品例=下の写真の下=に比べると旧型に見える)。 確かにICOMはトランシーバーを製造しているから、モサドの手は日本企業の製造子会社にも延びていたことになる。 これによりヒズボラは、通信手段を失った可能性が高く、対イスラエル作戦へ大きな痛手となる。 昨年の今日の日記:「季節感の変質」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202309200000/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.09.20 01:15:03
|