そら豆
5年前の2月に結婚して、1ヶ月と少しして夫の曾祖母が109才という長寿で大往生を遂げた。少し前に華やかな場所で集合した夫の母かたの親戚と今度は地味な服を着て、蛍光灯のしたで再会した。通夜という場所だったが、大往生だったね、おめでたいことだね、という声が聞こえて来る、穏やかな時間だったような気がする。もっとも、夫は涙をこぼして落胆していたけれども。お経をあげてもらっている間、私はあるものに目が釘付けになっていた。それは、山盛りの塩茹でしたそら豆である。私は結婚するまで、このそら豆というものを実際にみたことも、食べたこともなかった。「あれは、いったい何?どうして?」そんな気持ちでずっと、豆をみつめていた。狭い畳の間がだんだん広く感じ始めた頃夫がおもむろにその山盛りのそら豆を下ろして矢継早に食べ始めたのだ。姑が「ばあちゃんもすきだったけど、あんたも大好きよねぇ」そこで、あぁ。そういうことか。と納得した。でも、そのそら豆ってどんな味がするんだろう。私は夫に1つちょうだい、と味見させてもらった。皮ごと食べてしまったので、夫は「食べた事ないの?」と驚いた様子だった。「うん、そうよ」コクのある、味の濃い豆の味に、すこし吃驚した。それから数日後、スーパーで巨大な房のそら豆をみつけた。1袋に10数本入っていた。房を開けてみると、きれいな春色の緑がごろんと4つ出て来た。ふわふわしたスポンジ状のものに包まれた豆の構造をみて、世の中にはまだまだ知らないものがあるんだなぁ、とカルチャーショックを覚えた。それにしても、こんなに大きな房にこれっぽっち?と豆の抜け殻と少しの豆に落胆しながら、次の行程に移った。料理本に「切れ込みを入れて、4分程度塩で茹でる」その通りにやってみた。私がもたもたしていたのか、切れ込みを入れ過ぎたのか身が崩れてしまうほど、煮てしまった。いま考えてみると、それを潰して裏ごししてスープにもできたが、私はそれを夫に食べさせてみた。案の定、「なに?これ?茹ですぎじゃあ」とダメだしされた。それから春がくるたび、塩茹でに挑戦する。今日は娘が房から豆を取り出し、緑色がきれいね、と台所で話した。曾祖母から祖母、姑、その息子に、その娘まで食の好みが受け継がれている。今日は、2分30秒、手際よく仕上がった。