林艮酔記　

両神をめぐるいろいろの続き。

その３．八海山の謎。

清滝小屋まであと４０分ぐらいのところに，
「八海山」という札が立っている。
ご覧のとおり，山でもなんでもないのに。
お地蔵さんはいるけれど（矢印のそば）。

もともと修験道の山だから，
そっち関係の地名は多いのだけれど。

仏教的世界観では，
世界の中心に須弥山がそびえ，
その周りに九山八海があるという。
その関係からつけられたのであろうか。

ちなみに須弥山の別名は，妙高山。
その頂上には帝釈天がおわすのだそうな。

思わず寅さんの顔が浮かびつつ，
日本酒を熱燗で飲みたくなったのであった。


その４．出会った人々１

山を下りて，バス停でミカンなぞ食べていたら，
中型バイクの２サイクルエンジンとおぼしき音が近づいてくる。
見ると，おじさんライダー（といっても，同年輩かな(^^;）。
ひょいと頭を下げ，人懐こい笑顔で，
「リョウカミサンへ行ってらしたんですか？」
「ええ」と私。
ああ，やっぱり「リョウカミサン」なのね…と，関係ないところで反応する。
「道は険しいですか？」
険しいかどうかは，その人がどういう経験をしてきたかにもよるなあ，と思いつつ，
「いやぁ，しっかりしてますよ。危ないところはないです」
「どちらからいらしたんですか？」
こういう質問も，どこまで細かく答えたもんだか…なんてこと考えながら，
「練馬から西武線で…」
すると大将，
「わたしは秩父から来たんですよ。ナンバーは練馬ナンバーですけど。バイクは息子のを借りてきまして」
う～ん，ナンバーなんか見てないんですけど(^^;　でもとりあえずなんか反応しないと…
「おやまあ」
間抜けな反応だなあ，と思ったので，
「ドライブですか？」
…さらに間抜け。
「あ，いや，ツーリングですか？」
「ええ。５時から仕事なんですけどね。ちょっと両神山見てくるから，って出てきたんですよ」
「これから仕事ですか？ 大変ですねえ」
飲食関係かな。
「じゃあ，そろそろ行かないと」と言って，
おじさんライダーは，さわやかに去って行った。



その５．出会った人々２

入れ違いに，下山してきたおじさん（この人は，明らかに年上）。
なぜか木の枝を１０本くらい，ビニールの手提げ袋に入れている。
ひょいと頭を下げたら，くるりと向こうを向いてしまい，
それっきり１時間近く，
同じバス停でバスを待っているのにもかかわらず，
一度も私の方に顔を向けなかった。
う～む…



その６．出会った人々３

16:36のバスが，５分ほど遅れてようやく到着。
小銭が足りなかったので，運転手さんに訊いた。
「バス共通カードは使えますか？」
バス共通カードとは，東京・埼玉・神奈川のバス会社が共同で発行しているプリペイドカードである。
すると，
「いやあ，使えないんですよ。町営なもんで」
「あちゃぁ，五千円札しかないんですけど」
うっかりしていたのである。
「そしたら，終点の農協でこわすしかないですね」
農協？　役場と警察署は記憶にあるけど，農協なんてあったっけ？
でもまあ，しかたないので，
「ああ，そうですか。すみません」
運転手さんは，首を伸ばして下山口のほうを見て，
下山してくる人がいないのを念入りに確認した後，出発。

心地よい暖房にうとうとしていると，あっというまに終点，小鹿野町役場。
さてどうすりゃいいのかしらん，と思っていると，かの運転手さん，
「じゃあ，こわしてきますから」
私ゃ五千円札を渡して，バスで待っていればよかったのである。

バスを降りると，乗り継ぎのため，目の前のバス停へ。
すると運転手さん，窓から叫ぶ。
「次は２９分ですから」
「ありがとうございます」
バス停には，件の枝おじさんと私の二人。
待ち時間はほんの２，３分。でも，木枯らし１号の吹く中，とっても寒い。
すると，さっきまで乗っていたバスが目の前に移動してくる。
乗降口のドアが開き，運転手さんが，
「２９分ですから，そこ，動かないで」
「はい（…？）」
バスはさらにＵターンして，道路の反対側へ。
するとそこには，件の枝おじさんが，自販機で飲み物を買っていた。
運転手さんはその前にバスを止め，さらに同じことをわざわざ言いに行ったらしい。

たしかに，バス１本逃すと大変だから。
それにしても，一途な親切って，いいなあ。
くしゃみをしながら，あったかい気持ちになったのであった。