彼との逢瀬で、今回初めてしたことがあった。
彼の髪を洗ってあげたことだ。


普段の逢瀬では、彼は髪を洗うことがない。
そのまますぐに家に帰るからだ。
シャンプーの香りをさせて帰ってはいけないよね、やっぱり。
でも、今回は泊まりの出張。
こんな機会でもなければ、なかなか彼の髪を洗ってあげるなんてことは
できない。


「髪を洗ってあげるね」
いいよ、と　断られるかと思ったけど
彼は何にも言わずに、静かに浴室のイスに腰を掛けたまま。


シャカシャカと彼の髪を洗う音だけが聞こえている。
ふたりだけのバスルーム。


ちょっと髪の量が多めで、ゆるいウェーブの天然パーマの彼。
目を閉じたまま、そっとつぶやいた。
『シャンプー、上手だな。気持ちいいぞ』


…なんだか、妙に嬉しかった。


また洗ってあげたいな、彼の髪を。