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2004年11月26日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
朝方、夢を見た。哀しい夢だった。

私は、友達に手招きされる。するとそこはプールで、私達はしばらくスイミングを楽しむ。

そこから突然場面が変わる。病院の手術室に私はいる。ドクターが着々と手術の準備をしている。「子宮外妊娠」という言葉が薄れ行く意識の外でよぎる。

違う。勘違いです。私は産みたいの。

私は産みたいんです、産みたいんです、と叫ぶ。そこで、目が覚めた。身ごもった子供が自分の中から消えてしまう夢をみたのは初めてだった。

こういう夢を見るという事は、精神状態があまり良くない証拠だ。私はジェルのようなドロドロとした哀しい夢の残骸をひきずったまま起き出し、夫を送り出した。

__________________

昨日の日記を書いてから、ふと想い出した事がある。

ある友人がいる。中学時代の友人で、結婚して年上の旦那さんと2人の子供がいる。地元で実母と共に二世帯住宅に暮らしている。彼女がある時、好きな人がいる、と電話をかけてきた。まだ私が前の結婚をしている時の事だから、もう随分前の事だ。

私は昨日書いたように、こういう時人はすでに己の中でどうするかを決めていると思っていて、そういう人に対しては、敢えて背中を押すという事をしない。彼女は決して私の声がききたくて電話をしてきた訳ではない。不安で誰でも良いから背中を押して欲しくてたまたま私に電話をしてきたに過ぎない。

嫉妬という感情からではない。大人として大人である友を、友と思うからこそ敢えて突き放したのだ。危ない橋を渡ろうとしている友への、心配ゆえの苛立ちはあった。しかし進むべき道を決めている人を引き止めて一体どうなるだろう。まっとうな家庭がありながら家族を裏切るというのなら、彼女も大人としてそれ相当の覚悟をしての事だろうと思ったし、それならば自分は介入すべきではない、とも思った。

相手は独身であった。2つか3つ年上であったように記憶している。話をきいている限りでは心優しく、純粋な人物であるように思えた。彼女は今とても幸せなのだ、と言った。

彼女は離婚をしたいと言う。しかし状況が状況でもあるし時間がかかる、焦らずやるしかない、と。人は飽きやすいものであるし、彼女と不倫相手が長続きするかどうかは微妙であるなと思ったが、余計な事は言わずにおいた。

予想外で、その後長く関係は続いた。そしてその後なんと彼は遠い街から彼女の住む街へと引っ越してきた。元々していた仕事をやめてである。彼女を追ってだ。私は驚いた。男にもこういう情熱を持つ人があるのかと。

引っかかりは、ここだった。彼女は事あるごとに言うのだった。夫は私の話をきいてくれない。あれをしてくれない。これをしてくれない。まるで夫のせいで自分が不倫をするに至ったと言わぬばかりに。私はここに、途方も無いずるさを感じた。帰るところのある者は、そうである分時として卑怯だ。

遠く離れた街から呼び寄せ未来ある彼に長い愛人生活を強いて、もし離婚出来なかった場合にも、頑張ったけど無理でした、ごめんなさい、で済ませる事が出来る彼女と彼ではまるで違う。

彼は文字通りひとりである。そしてはるばる京都からこちらに出て来ている以上、知り合いはいない。独身である彼に帰る場所はない。もしも離婚が出来ず終わったら、と私はそうなった時の彼の心中をふと思ったのだった。

あくまで彼の意思だという言い方も出来る。彼の意思で彼女を追ってきたのだから、そこでうまくいかなくともそれは彼女のせいではない、それは正しい。彼とていい大人である。それを選ぶという選択肢があれば選ばないという選択肢もあったはずである。しかし彼は選んだ、のだ。

それにしても。私の目には彼女が、こういった事にあまりに無頓着であるように見えたのだった。話をきいていて、どうも彼女はこういった所までは思いが及んでいないように思えた。駄目ならば自分は戻れば良いし、という甘えがあるように感じた。

そういう逃げ場のある人間は、こういう時なかなかきちんと責任をとる事が出来ない。彼女は誰も守れていない。考えてみれば当然だ。家族ひとつ守れない者にどうして「恋人」が守れるだろう。

例え不倫であっても、示すべき誠意もあれば責任もある。

その後の彼らの恋の行方を、私は知らない。

陰に隠れその姿の見えない彼女の夫や子供のその後、を時々ふと想う。離婚歴を経てやっと幸せになり子にも恵まれた彼女の夫と、2人の子供。あれからぱったり連絡が来ないし、私も元々電話が苦手で誰に対してもメールはしても電話はほとんどしないというのもあり、電話していない。共通の友人2名は、特に理由はないそうだが私以上に連絡をとっていないのだそうだ。

己の不倫を誰かのせいにするという浅はかさと、彼女の人を傷つけるという事に対して、どこまでも思いのままに生きる事がどれ程多くの人を傷つけるかという事に対しての無自覚さを、私は沈黙をもって戒めた、のかもしれない。

別に彼女を見捨てる気はない。また連絡が来たら、普通に話をすると思う。彼については自分からはきかない。話したければ、彼女から話すだろう。私は例えどんなに人が悩んでいても、沈んでいても、不用意にあれこれと自分から首を突っ込むのが好きではない。

人がこういう時、必ずしも目に見えた分かりやすい何か、を必要としているとは限らないからだ。やたらと自らアドバイスをするのも好きではない。人が必ずしもそのようなアプローチを必要としているとは限らない。むしろ、沈黙が特効薬である事もある。

本当は首根っこを捕まえてその決断から引き摺り下ろしたい。そういう時、想うが故、歯がゆいがそれを敢えてしないという事。その意味を果たして、彼女は汲んでくれたのか。それは今もって不明である。

みすみす人が負のスパイラルに取り込まれてゆくさまを、何ひとつ感じず黙って見ている事の出来る人間が、どこにいるというのか。

どんな時も。幸福であるかを決めるのは他人ではなく、その本人だ。その人が幸福だと思うならば、その道は正しい。

先頃違う人から同じような内容の電話がかかってきた。窓の外をぼんやりと見つめながら、私は黙って話をきいた。微かではあるが、私は緩やかに傷ついていたのだった。その意味が分かる人は、ごく僅かだろう。

例えば私が単純に不倫というものの存在が許せない、とか、そんな事ではない。私は確かに真面目で潔癖な方ではあるが、そこまで潔癖ではないし、第一、そんなご清潔な事を言う年令でもないのだ。

ただなんとなく、こういう事があると何故か哀しくなる。

だが誰かに慰めて欲しいとも私は望まない。こういう時私は、ただそっとしておいて欲しいと望む。そうしているうち、気付けばもしかすると錯覚かもしれない緩やかな痛みは、そこから立ち去ってくれるから。

何人も、己の幸福は己が決める。何人も。





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最終更新日  2004年11月26日 11時20分02秒
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