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本当に忙しい毎日だ。時計がカチカチ常に耳元で鳴っているような。
私の朝は早く、そしてまた夜も早い。 朝を告げるのは私の家では鳥ではなく、子供だ。 ぬるりとした真っ暗闇を、無邪気な甲高い声が切り裂く。 残酷でもあり純真でもあり壊れやすそうで それでいて強靭でもある、響き。 大人はもう少し寝ていたいのだが、子供は待ってはくれない。 (そう、子供は待ってはくれない。大概の事において) 根負けして起き、雨戸を開けると、雨が降っていた。 この雨戸は、開けるととても大袈裟な音を立てる。 「ガラガラ」と「キーッ」が同時に鳴る。 しかも寝室の方のは小さく穴が開いていたりもする。 夜は真っ暗闇で眠る事にしているので この雨戸を開けずして、朝は始まらない。 私の今住むアパートは築年数が古く、あちこちに 昭和の香りが残っている。部屋には鴨居があり、 うっすらと草花の模様が入ったクリーム色の襖があり そして常に、どこか湿った匂いがする。 近々この家と、さようならをする事になった。 元々ここは夫が独身時代から住んでいた単身者向けの 物件だったのだが、面倒でもありそのまま住んでしまっていた。 けれども子供が動くようになり、流石に手狭になった。 この間取りと広さでは子供が夜眠ってから 大人がゆっくりテレビを見たり音楽を聴いたり話したりする 時間が持てない、というのもある。 去年の今頃はまだこの子は私の中。 あの頃もこんな風に、雨が降っていたのだな。 _______________ 雑事を済ませる間、この子をベッドに置いておいた。 しばらく泣き声がきこえていたが、用事を済ました頃 そっと襖を開けると、いつの間にか、眠ってしまっていた。 うつぶせになり、枕とは反対側に頭を置いて眠っている。 細くてタンポポの綿帽子のような髪の毛が、 扇風機の風になびいていた。 睫にはしずくをたたえている。 朝露を含んだ草の葉のようだ。 なんとなく今日は、雨に降り止んで欲しくない。 バラバラとビニールを打ち付ける雨の音。 ぴちゃん、ぴちゃん、雨の粒は スローモーションで落ちていくようだ 生きる喜び。生きる哀しみ。 ごちゃ混ぜになり、雨雲となる。 愛しいひとよ。 愛すべきひとよ。 かつて愛していたひとよ。 何も見ぬ感じぬ振りをするのは難しい事だ。 むしろ人一倍見、感じていてもいるのに。 泣いてしまおうか、と思ったが無理だった 泣いてしまうには、哀しみがのっぺりとしすぎている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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