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以来、直子との共存は私のテーマとなった。
直子と対話をしながら根気良く、生きるという事。 時に投げ出しかけたりしながらも。 突き放したり、なだめすかしたり、冗談を言い合ったり。 そうしてとにかく、生きる。生きるしかないのだ。 直子は半透明の体をしていて、何か食虫植物のウツボカズラの ような袋の中に住んでいるのだろう。 寝た子が起きるように直子が起きると、どぎまぎしてしまう事もある。 気付くといかにも引っ込み思案そうにウツボカズラから顔を出して こちらをうかがっていたりする。ちまちまと布団を敷いて寝支度をしたり、 神経質そうに、櫛で髪の毛をすいたりもする。 緑がやってきた事は、ほとんどない。緑は外部に住んでいるので あまり会う機会がない。そこが直子とは違う点だ。 緑は、例えばこんな風に言う。手をぶらぶらさせながら。 「あんた、本当にうじうじしてるわね。あたし、そんな風に突き詰めて 考えるの大っ嫌いなの。そりゃ、あたしだって悩んだり考え込んだり 全くしないって訳じゃないけど、あたしのは、あんたのようなそんな ジグソーパズルみたいな作業じゃないのよ。馬鹿馬鹿しいじゃない? 時間が勿体無いってもんだわよ。」 「憂鬱?そんな物、蝉みたいにおしっこひっかけてやればいいのよ。」 緑には、背中に羽が映えているのだ。妖精のように。 陽に透けると、羽は瑠璃色に光る。 緑は恐らく、直子のようなウツボカズラのような袋は持たない。 どこかの木の上に住んでいる。背の高くてとんがった葉を茂らせる木だ。 その天辺に、きっと緑は住んでいる。 「袋なんて興味ないわね。窮屈な感じがして嫌ね」そう言うだろう。 緑は、こうも言いそうだ。 「あんたね、そんな事で悩んでいる暇があったら、セックスでもしたら?」 考えるという作業より、たった一度のセックスの方が 余程有意義である事もある。 うん。今度はそうするよ、緑。 私は思う。あなたもまた、もしかしたら井戸持ちなのではないかと。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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