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「ダメ元でメールしてみます」
そんな書き出しのメールが、先日突然届いた。 一体どなたなのだろう、と名前を見たら、偶然同時期に 離婚をした、とある女友達であった。 彼女とは、かつては、本当に沢山のメールのやりとりをした。 今思えば、言葉を重ねる事で、互いの位置を確認しあって いたのだろう。大概共に長い文章でのやりとりだったと 記憶している。 美輪明宏を観、聴き、小松亮太を聴き、キンモクセイの花を見た。 最後に会ったのは、彼女が離婚をした年だったと思う。 私は、すでに離婚をしていた。奇しくも同じような 痛みを抱えていた彼女は、私より少し後やはり離婚をしたのだ。 つまり私達は、同じ穴の狢なのであった。 いつだったか、彼女にアロマの精油を使って作った手作りの ローションを手渡した。柑橘系だが、ネロリとローズが ごくほのかに香る。私は、香りで魔法がかかれば良い、 そんな似つかわしくもないロマンチックな事を考えたのだった。 最後に会った時は記憶が違っていなければ、ロシア料理を 食べたと思う。陸橋の上で見た後ろ姿を、今でも覚えている。 彼女はあの時、確か都心でのひとり暮らしを始めたばかりか、 或いは始める所であったと思う。 私はあの日、彼女の後姿に切ない希望を見たのだった。 大きく何かを失いそして立ち上がる者の希望は、 真摯で前向きでありながらも、いつでも切なさをはらんでいる。 この世に例えば、彼女の事を嫌いな人がいるなんて 信じがたいような、そんなひとだ。温かく、優しい。 彼女のような人にはたった一つも、傷ついて欲しくない、 思わずそんな不可能な事を考えてしまうような。 彼女はふんわりと風を纏うようにスカートを履いて、 そしてその風を纏うスカートに相応しく、ふんわりと笑っていた。 あれから、何がある訳でもなく「なんとなしに」ご無沙汰 してしまっていて、多分、このままになってしまうのだろうな、 心の片隅でそんな風に思っていた。メールアドレスはきちんと 残っていたのだが、流石に変わってしまっているだろうと 勝手に諦めてしまっていたのだ。 案外友人関係というのはなんとなしになんとなしに、で 途切れていってしまう。 私が連絡をとらなかった事を後悔したのは こんな一文を読んだからだ。 「りえちゃんにささえてもらった事は、今でも感謝しています。」 私はなんとなしに諦めてしまった自分を、とても後悔した。 私は、あの時メールすべきであったのだ。ダメ元で。 私は、覚えているのだ。 彼女が私の目の前で泣いた日の事を。 昼下がりの、ティールームだった。 紅茶のレモンが苦かった。 本当は私も、涙をこらえていたのだった。 感謝しているのは、私の方だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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