エネルギーとモチベーションに蓋をする新入社員研修
東京五輪の決定やアベノミクス効果などの要因で景気回復への期待が高まったせいで、今年は新卒採用を増やしたり、また復活させた企業が増えたお陰で新入社員研修が多数実施されています。その影響で、私自身もその研修の講師に呼ばれる機会が増えました。そこで気になることがあります。「世の中は変化している!」「私たちも変わらなければならない!」と言われる割に研修のカリキュラムも相変わらずなら指導方法も…という企業が多いからです。昨年末にある大企業での教育計画の打合せに呼ばれました。「これからはグローバル化」で「外国人観光客に対応できる接客を」ということで、国内だけで海外経験も豊富な講師や業者が集合しました。その中に、シンガポールエアライン出身で接客トレーニングの講師やコンサルを行う企業を経営するミランダさん(女性推定50歳前後、シンガポールと日本のハーフ)が参加されました。マリーナベイサンズからドバイのホテルやショッピング・モールなど、世界に名だたる商業施設で教育を行う、おそらくアジアではNO1と言われるカリスマ的存在とのことで、もちろん日系企業の指導経験もあるお方とのこと。そのミランダさんが日系企業の新人教育の問題点の指摘が鋭く考えさせられる点が多々あったので、一部シェアしたいと思います。(尚、ご本人の要望により、名前や社名は伏せてあります。===日本人従業員一人ひとりの接客サービススタッフとしての素質そのものは本当に素晴らしい。おそらく世界一でしょう。しかし、指導方法やマネジメントは三流。その典型は新人研修。どんな職種でも新入社員研修を実施するのは日本の素晴らしい習慣です。しかし、その新入社員研修が効果的でないどころか逆効果になっているケースが多々あります。例えばマナー教育のシーンを見ればわかることで、基本的に「お客さまに対して、失礼にならないように…」を中心に指導しています。「これは失礼…あれも失礼…」と、「これでは一流の接客とは言えない…」という指導が飛び交い、新人は緊張して硬直して必死に講師の指導を受けている…そういうシーンを見かけます。確かに財界の要人やVIPの応対はすぐには難しいのはわかります。それは仕方ないことで経験を積めばできることです。仕事を軽く見ないで欲しい、甘くない、と教えたい気持ちはわかります。しかし、最初から(当分は)やらせてもらえない仕事を基準に指導されては気が滅入るのも当然です。最初は一般客の対応を習得すれば十分です。人間は多少できるようにならないと、本物の凄さは絶対にわかりません。(これはスポーツでも芸術でも同じです)そしてその勢いで、一般客に対応するシーンでも過剰とも思えるほど「気遣い」を強調し過ぎる傾向があります。気遣いも経験のなせる技で、20歳そこそこでマスターできるものではないでしょう。対して客の立場でも、20歳そこそこのスタッフが20年のベテランと同じことをしてくれるとは思っていません。だけど、そうしたベテランの所作までも押し付けてしまうわけです。もしそれが必要なら、なぜ新入社員を採用するのでしょうか?中途採用でベテランを雇用するべきです。矛盾してます。新入社員を採用するのは20代の若いスタッフが必要だからです。若くてイキキ・ハツラツとした仕事をして欲しいからのはずです。しかし、実際の研修を観ていると、その若くて溢れるようなエネルギーやモチベーションに「蓋をする」ような指導が行われています。それはまるで肉食動物に草食動物になれと言わんばかりです。私たち中年から見れば本当に羨ましいエネルギーとモチベーションがあるのです。これは訓練しても取り戻せるものではありません。なのにそれを蓋してしまうなんて…。それで、たいていの日系企業からは「入社2年目くらいになるとモチベーションが下がって困っている。研修して欲しい」というオーダーが来ます。自分たちでエネルギーとモチベーションに蓋をしたことも気づかずに。若い人にしかできないことをしっかりやってもらうようにしなければならいのです。若い人を採用しておいて、中年のような接客や所作、態度を求めることが間違いです。それに気づかない教育担当者や管理者が多いのが問題の本質です。繰返しますが、日本の若い人々の素質は素晴らしい。これは間違いない。(時間と約束を守るし、宗教対立もない。人のモノを盗まない)サービス業の人気が落ちていると聞きます。それは「押さえつけられるような指導と管理」に原因があるからです。改革するべきはこの点で、これをクリアすれば人気職種になれるはずだし、世界からお客さんが来ても十分に通用するサービスはできるはずと考えてます。エネルギーやモチベーションを奪わないように指導する能力を習得してください。===「蓋をする」という言葉が印象的な講演でした。★レジャーサービス研究所のホームページ★