8/29夜の10時半。
ぎやーーーーっ!!うごっ、うごっ、うごーっ、
ぎゃーーーーっっっっ! うごっ…
ぎゃぁぁぁぁーーーっ!! ぎゃぁぁぁぁあっ!
果てしなく続くかのようだった子供の泣き叫びがやっと…というか、突如鎮まった。
ルーちはぎくっとして耳をそばだてる…
アパートがわらわらと群生するここいら辺。
人口は密集しているけれども群にはなっていないここら辺。
近所の顔も知らず、挨拶もしない人が多いここら辺。
昼を問わず、夜を問わず、赤ん坊、子供のこういう泣き叫ぶ声が
一カ所ならず出る。
そのたびに子供を持った事のないルーちは心配で心配でおろおろする。
どこのおうちのどれくらいの歳の子供かもわからない…
今日の叫び声には親の声が混じらない。
なだめる声も、あやす声も、怒る声も…まだ聞こえる方が安心だ…
お願いだから、虐待とかではないように…いつもいつもそう思って気もそぞろ。
…でも虐待を受けている子なら、あんなには泣き叫ばないだろう…
叫ぶとしたら、初期の段階…そのサインをまわりが見落としたら…
怖いのは赤ん坊の泣き叫びが続く時。
疳の虫とかであってくれ、そう願いつつ、ルーちはベランダをうろうろする。
…役所に虐待の有無を調べてくれと通報しようかと、本気で考えた事も何度かある。
だけど、駐車場の反響で部屋も特定できない有様では…
この間は疳の虫で泣きやまない赤ちゃんを抱えて、
お母さんが階段を何回も上り下りしながらあやしていた…ホッとした。
でも何で階段?
お部屋の方がよさそうに思うのだけれど、お父さんがうるさいとでも言ったのか?
部屋は静かになるけれど、赤ちゃんの声は階段を伝い駐車場に反響して
すごかった…
お母さんだってものすごく疲れてしまうだろうに…
ルーちと同じ階のお父さんは4才くらいの息子に怒鳴りまくる。
筒抜けなので躾のつもりで怒鳴っているという事はよく分かる内容…ルーちには。
でもね、どんな筋の通った理屈でも、
大きな大人が、しかも男性のドスの効いた声で機関銃のように怒鳴って、
子供の腑には落ちるのかしら?
それより、子供がそれを『躾の形』と思って、また自分の子供に繰り返すのではないかな…
躾の前にはご近所へのはばかりなぞ無しという形で。
言葉遣いも言い聞かせとか、叱責と言うより、罵倒だ…
親の汚い怒鳴り声の方がよほど聞き苦しい。
いつぞやはスーパーで若いお母さんが、三才くらいの子に向かって
「ばかやろーっ!テメェなんか死ね。死ねよ。いらねーんだよ、お前なんか。」
聞いているこちらの方が背筋がぞっとした。
子供はもう、言われ慣れているのだろう。泣きもせず、悲しい顔でもない。
…この子が大きくなって、それでぐっさり傷つく人もいるんだと思いもせず、
同じ言葉を発するようになるのではないか?
ルーちの胸がぎゅうぅっとなった…
口に出す言葉より、背中が語る言葉の方が子供に対する影響力が大きい事を
大人は知っておいた方がいいと思う。
ポチッとな ( ^ー°)b