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今頃になって、私の住むビルについての1999年のタイムズ記事があったのを友人が見つけた。
このビルは元々ホテル式の女性専門アパートなのだが、90年代半ばにオーナーが替わり、女性専門のアパートからツーリスト向けのホテルに改装しようとした。この新しいオーナーというのがかなりのくせ者で、ニューヨークでは多くのホテルやビルを所有するユダヤ系の不動産デベロッパーで億万長者。ジュリアーニ前市長のファンドレイジングなど、政治家や市への寄付もかなり高額をしている。ポーランド生まれのホロコーストの生存者で、戦後、19歳の時にイスラエル経由でニューヨークに来たという。ビル・クリントンやスピルバーグとも親しく、かの有名なウールワース・ビルディングも部分的に所有しているらしい。敬虔なユダヤ教徒で彼自身が所属するユダヤ寺院、シナゴーグの再建にも力を入れているという。 こういう人物が私たち貧乏人が住む薄汚い安価の女性専門アパートホテルに目を付けたのは、当然、マンハッタンが不動産ブームだったこともあり、このビルをホテルに改造すると巨万の富が稼げると思ったからだろう。実際、リバーサイドの閑静な住宅地で公園も近く、ロケーションとしてもアッパーウエストではかなり良い方だと思う。そこまでは良いとして、彼の最大の間違いは、この経営を彼の息子、Jに任せたことだった。苦労人の彼と違い、この息子は外見からしていかにも遊び人のどら息子で、まったく頭脳というものがなかった。 もちろん、Jの課題は、改装にあたり、住んでいる住人をどうやって立ち退かせるかということだった。これはNYのどこの大家も苦労することだが、「居住権」という法律で守られている家賃を払っている住人を、大家が自分の都合で追い出すことは不可能だ。家賃滞納者がまず追い出された。それから、いろいろな誘いがJからやってきた。私にオファーされたのは、近隣に持つ別のアパートビルに移ることで、「最初の1年間は家賃が今のままの安さで良い」と言われた。最初の1年だけ安くしてもらっても仕方がないので同意しなかった。結局、私を入れて50人ばかりの住人は動くことを拒絶した。そしてJが次に始めたのは、暗黙のハラスメントだった。まず、工事人たちが住んでいる私たちにおかまいなく、昼となく夜となく、改装工事を始めたのだ。彼らはマスクをして塵芥から自らを守り、私たちはマスクなし。1-2年間、埃まみれの廊下やバスルーム、エレベーターの中で暮らすことになった。騒音も凄かった。朝は8時前から工事人がビルに詰めかけ、工事の機械を大音響で夕方まで回し始めた。それだけではない。こういう工事人たちと、住人の女性たちの間には当然のように摩擦が起こった。言葉による暴力、セクシャルハラスメント、人間を人間とも扱わない態度は全員徹底していた。工事人の中にはわざわざ自分の男性としての持ち物を自慢するような迷惑電話をテナントにかける人もいた。さらに、フロントの人間が住人のメールをメールボックスに区分せず、そのままゴミ箱に捨てていたということも発覚した。精神力の弱い人は耐えられず諦めて出ていき、自殺する人もでてきた。 こんな中、住人たちにWest Side S.R.O. Law Projectという地域のコミュニティ法律家が手をさしのべ、集団訴訟を起こすことになった。その訴訟の中、ハラスメントの罪ばかりか、このビルの改装工事が市の許可なしの無法で行われていたことも発覚した。当然、ホテルとしての営業許可もとっておらず、ホテルとして看板をあげることも、商売を行うことも無法だった。一応の改装が終わったあと、主にヨーロッパと日本からのツーリストが客として迎えられ、大きなシャンデリアがロビーに置かれ、通りには「リバーサイド○○○」と書かれた屋根が出たが、ホテルとしての営業は違法行為であったということが分かったのだ。Jは「違法であることを知らなかった」と法廷で弁明したが、結局、禁固刑になり、裁かれることになった。そして、元からの住人たちは2年間の無料レントとその後も不動のレントでの永久居住権を得ることになった。 あれから10年、最初はネットにまで広告をだして経営していたツーリストホテルも、市の締め付けが厳しくなったせいか、今は泊まり客は全く見ない。近所の大学の寮として半分が使われている。日本人向けのウイークリーレンタルはまだ細々と続いているようだが、部屋の狭さのせいか、フロントの愛想のなさのせいか、最近は日本人客も滅多に見ない。どこを見ても今ではスカスカガラガラとしている。オーナーがどうやって経営採算をとっているのか不明だが、億万長者の大家にしてみれば、こういう失敗も仕方がないと諦められることなのかもしれない。Jはとっくに牢から出て、今でも商売見習いで近辺を徘徊しているらしいが、ここには滅多に来なくなった。 昨年、私の隣の部屋のお婆さんが亡くなった。50人いた女性たちも、老人が多かったせいか、この先10-20年で一人、また一人と淘汰されていくだろう。それこそオーナーとJの待ち望むことなのかもしれない。と言っても、彼らもまたその頃には亡くなっている可能性もあるが。 NEIGHBORHOOD REPORT: UPPER WEST SIDE; Hotel Tenants Worry and City Sues Owner By NINA SIEGAL March 21, 1999 Alexa Benoit has lived in a residential hotel, near Riverside Drive, for 12 years, and has seen it transformed from a low-income women's residence called the Simmons House to the Hotel Riverside, a tourist hotel charging $110 a night. When the building's landlord, Jay Domb, announced in 1994 that the single-room-occupancy hotel would be renovated, Ms. Benoit said, she welcomed the plan because the place was ''falling apart.'' But soon, she said, she began to suspect that long-term tenants would be driven out. ''Things were done to really intimidate us and to make us feel really unwelcome here,'' she said. ''We walked on planks, not regular floors, for four months.'' Garbage was left in the halls, and the water and electricity were often cut off with no warning, said Ms. Benoit, one of about 50 long-term tenants. City officials said the renovations were done without proper permits, but despite stop-work orders, rooms were expanded and the lobby was upgraded. Now the city is seeking to punish the owner for moving ahead despite what officials say are violations of the housing law. On March 2, the city went to State Supreme Court for an injunction to stop the hotel from renting rooms to tourists. ''They were not given permits and approvals to alter the building in the way that they did,'' said Deborah Rand, deputy chief of the Law Department. ''We want to insure that they maintain the building in compliance with the law, if that means getting permits to have it the way it is now, or to restore it to its prior configuration.'' Mr. Domb's lawyer, David R. Brody, said the landlord made ''a mistake'' by not getting certain permits before renovations because he was misinformed by a consultant. He said Mr. Domb was not trying to drive out tenants. And, he said, his client wants to negotiate a settlement with them. ''We're offering them abatements, options in terms of moving to other rooms with upgrades and better lives than the lives they have in their present rooms,'' Mr. Brody said. ''We took over from a lessee who had driven the building into the ground, and we started upgrading and believed we had done everything according to the law, and the city disagrees with us,'' Mr. Brody said. ''The building was an eyesore, crime-infested and a blight on the neighborhood, and it's certainly no longer that.'' Elizabeth Kane, a lawyer who represents the tenants' association and is project director of the West Side S.R.O. Law Project, said the case was an important step in fighting landlords who illegally converted low-income hotels for tourist use. ''What happened at the Simmons is what happens all the time, and the city is simply not able to bring this kind of case all the time,'' Ms. Kane said. ''This is an unusual step, and they took it perhaps because it was such an outrageously glaring case.'' お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年06月14日 18時23分12秒
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