エネルギーと水のゆくえ
70億を越えた人口を養うには水とエネルギーが足りない。現在の多収穫品種の穀類は多量の水とエネルギーの投入を必要としている。それが無くなれば、21世紀は飢餓の時代となるだろう。それはもう始まっている。ーーー引用開始ーーーhttp://agora-web.jp/archives/1492072.html社会・一般エネルギーと水のゆくえ辻 元 / 記事一覧豊かな生活を支えるものは、何か? それは、豊富なエネルギーと水である。 たとえば、穀物は、その重量の約2000倍程度の水と、肥料、トラクターなどの機械力で生産されるが、窒素肥料は天然ガスから作られる水素と空気中の窒素から大量のエネルギーを使ってアンモニア合成することでを生産され、その合成に使われるエネルギーは年間5000兆キロジュールで、大型の原発150基分の生み出すエネルギーに相当する(大河内直彦「地球のからくりに挑む」より)。 つまりアンモニアの合成だけで、我々の摂取カロリーのおよそ20%にあたるエネルギーを消費していることになる。このように食糧生産、電力、交通機関など、豊かな生活のためには、大量のエネルギー、水なしには成り立たない。 ここでは、 Paul Chefurkaの論文:Paul Chefurka "World Energy to 2050 (2007) を元に、エネルギーと水の将来について考えてみたい(以下のグラフはこの論文から転載)。有限化するエネルギー、水現在の世界を支えるエネルギーの中、一番大きなものは、石油である。 しかし、その石油生産は、既にピークアウトしており、今後、生産は減少してゆく。埋蔵量はもっとあるだろうという人もいるだろうが、これは質を無視した話だ。始めは掘れば吹き出す油田でも、やがては海水を注入したり、さらに、高温の蒸気を注入しなければ原油を回収できなくなり、生産効率(EPR: energy profit ratio)は落ちてゆく。 簡単に言えば、投入エネルギーに対する産出エネルギーの割合が減少してゆく(石油のEPRは非常に大きく凡そ100ほどもあるが、太陽光発電は凡そ10未満と言われる)。 EPRが小さいとエネルギー源としての質が低下し、それが1を下回ると意味を失う。Chefurkaはガスについても、2025年前後にはピークアウトすると予測している。 Chefurkaの論文は2007年のものなので、シェールガスに期待する向きもあるだろうが、これは難しい。 シェールガスの生産効率は非常に低いものだし、2011年6月のニューヨークタイムスの記事: "Insiders Sound an Alarm Amid a Natural Gas Rush" (天然ガスブームの最中に警告の内部告発)には次のように記されている。“Money is pouring in” from investors even though shale gas is “inherently unprofitable,” an analyst from PNC Wealth Management, an investment company, wrote to a contractor in a February e-mail. “Reminds you of dot-coms.” “The word in the world of independents is that the shale plays are just giant Ponzi schemes and the economics just do not work,” an analyst from IHS Drilling Data, an energy research company, wrote in an e-mail on Aug. 28, 2009.リークされた文書 つまり、シェールガスビジネスは、初期の生産減退が大きいことから、期待を煽って投資資金を集める、ねずみ講のようなものだと言うのだ。 これについては異論もあるだろうが、そもそも石油の枯渇が心配される今、アメリカも輸出を許可しないだろう(実際、今年5月の日米首脳会談での日本側の輸出要請は拒否されている)。 その上、日本の場合、天然ガスは液化しないと輸入できず、そのエネルギーロスは65%にも上るという。 これは、天然ガスをパイプラインで輸入する国に比較して、日本の大きなハンディになる。シェールガス採掘の引き起こす環境破壊も大きな問題だ。 メタンの放出は、温暖化を促進するし、地下水の汚染の問題も広く知られるところだ。 何れにしろ、シェールガスは、今後10年くらい様子を見ないと、その持続性について何とも言えない。 私はシェールガスブームは、一時のから騒ぎに終わる可能性が高いように思う。 一方、石炭は埋蔵量が豊富だから、エネルギー源にはなるが、残念ながら、主成分が炭素のため、温室効果が最も高い。 Chefurkaは、BPなどの資料から、将来のエネルギー源の推移について、次のように予測している:現在の先進国の不況は、このように限られたエネルギーを先進国と工業化してきた新興国と奪い合っているため、エネルギーコストが大きくなったことが、大きな要因である。 豊かな生活を支えるエネルギーは急速に減少し始め、それを台頭してきた新興国と分けなくてはならない。 今後、急速にエネルギーコストは上昇し、その結果、肥料価格や燃料価格が上昇することにより食糧価格が高騰すると考えられる。 一方、我々の豊かさのもう一つの源、水についても「水資源の危機ー渇く地球」で書いたように、水資源は今後、今後、大きく伸びることは期待できず、むしろ減少する可能性が高い。 「経済成長と水資源の枯渇」で書いたように、地下水の枯渇は深刻な問題になりつつある。 その一方、新興国の経済発展で水需要は、今後大きな伸びが予測されている。また海水の淡水化に1トンあたり約3kwhの電力が必要であることや、シェールガスの採掘には膨大な水が必要であることからも分かるように、エネルギーと水の問題は表裏一体の部分もある。 実際、中国内陸部のシェールガス開発では、水資源の不足が問題になりつつある:「中国のシェールガス開発、山積する課題」70億に達する世界人口は、急速に減少するエネルギーと減少する水資源に直面している。 明日は現在より貧しくなるこのように、今後の世界はエネルギーと水という豊かさのパイが縮小してゆく中で。より多くのプレーヤーが、そのパイを奪い合うという構図であることは明らかだ。 今後、先進国の国民は長期的には物質的に豊かになることは全く考えられない。多少の波はあっても、世界全体として貧しくなることは避けられない。 現在、先進国が行っている金融緩和などの景気浮揚策も、エネルギー、水という観点から考えると、全く効果はないだろう。 なぜなら、豊かさ(エネルギー、水)の総量が減少する一方で、新興国の台頭でその必要量が増えているという構図は変わらないからだ。 お金をばら撒いても、エネルギーや水は増えない。 現在の先進国の状況は不況というよりも、エネルギーと水の有限性の引き起こす、必然的な変化と捉えるのが、正しいのではないだろうか。 デフレ脱却など、何の意味もないのである。 何をすべきか将来にわたるエネルギー予測や水資源の枯渇の問題を見据えれば、新しいエネルギー源の登場に期待する前に、省エネルギーに努めなくてはいけないことは明らかだ。 原子力の利用も、ためらうべきではないだろう。 政府は2030年までに脱原発を目指すそうだが、実現可能性は乏しい。 このままゆけば、21世紀は飢餓の時代になる。 これを見据えて行動することが、何よりも求められる。