神経を取って被せるしかないと言われた症例
70代女性、左下3、遠心カリエス、自発痛-他院で神経を取って被せるしかないと言われたそうだが、実際にはそのようなことをする必要はない。100年前ならそうなのだが、抗菌剤と辺縁封鎖性に数れたCRが使える今日、まだそんなことをやっていること自体不思議なことだ。型取りして口腔外で作る補綴物には長期的な辺縁封鎖性はない。単にセメントが崩壊しても細菌感染しても長く持ち堪えているだけだ。そのために神経を取ると考えれば良い。ここでは3MIXという3種類の抗菌剤を使っている。これを使う目的は歯髄に感染しているもしくはその可能性のある細菌を死滅させることにある。またα-TCP(ハイドロキシアパタイト)も使っているが、これは歯や骨の主成分でこれらの修復に使う。α-TCPを軟化象牙質(虫歯)に塗ると再結晶化して硬くなる(虫歯が治る)。また2次象牙質も素早くできる。レントゲン写真を見てみると虫歯がほとんど歯髄近くまで達しており、痛くなっているか痛くなる寸前だという診断になる。通常の診断では神経を取る治療をして冠を被せ、さらに義歯のクラスプ(バネ)が掛かっているので義歯も作り替える必要も出てくるとなる。多大な通院回数と時間、費用も莫大となる可能性が出てくる。これが歯科医師の仕事というわけだ。もうお分かりだと思うが、歯科医師はここでしている一回で終わる治療をするわけにはいかない。歯科医院の経営が成り立たないからだ。これをするには通常の歯科医師の仕事はしないと心に決めるしかない。この歯にはステンレス製のクラスプがかかっている。歯よりイオン化傾向の小さな金属に接している部分は虫歯になりやすい、これを異種金属接触腐食という。歯のイオン化傾向はステンレスよりもかなり大きい。充填は辺縁封鎖性に優れたCRボンディングシステムを使うので、1mm幅の接着マージンを確保するためにマージン部分は新鮮歯質を確保しておく必要がある。処置中は麻酔は使わない。虫歯を除去していて痛くなれば虫歯ではなく、新鮮歯質だということがわかるので、それ以上削る必要はない。非常に簡単で分かりやすい。逆に麻酔をするということは健全歯質を削るためにあると言っても良い。露髄させてまで虫歯を全部取る必要はない。α-TCPで虫歯は治るからだ。出血しなかったとしても仮性露髄の可能性もあるので念のためにα-TCPには3MIXを添加している。薬剤にアレルギーがあれば添加しなくても良い。CRは何回かに分けて積層して充填するクラスプが適合するように調整して終わる