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マックの文弊録

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2006.10.16
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◇ 10月16日(月曜日):旧葉月二十五日(戊寅);愛媛新居浜太鼓祭。

北朝鮮がへなちょこ核実験をやらかして以来、この数日間は気持ちの良い秋晴れの日が続いている。別に核実験とは何も関係が無いが、そろそろ北のほうや高地では紅葉・黄葉の季節になった。黒部ダムの辺りは、ロープウェイの高みから紅葉を一望できる名所だが、今は正に綾錦の絶景が楽しめるようだ。・・・あぁ、仕事を放り出してでも行って見たい!

紅葉や黄葉は、春から夏にかけて光合成を行い、本体の樹木が生きるためにせっせと糖を作ってきた木々の葉が、その役割を終えて、自ずと枯れ地に落ちて土を肥やす過程だというのが普通の理解である。だから段々冷涼さを増していく空気の中で、華やかではあるものの一抹の寂寥感を催させるのである。

ところが先日(といってもかなり前のことだが)テレビで「日本一のブナ」という番組を見たら、ちょっと印象が変わった。実は紅葉も黄葉も、樹木にとっては大変な作業であり、特に北国では紅葉・黄葉から落葉に至る首尾如何は、その木にとって死活問題であるのだそうだ。

まず、紅葉・黄葉の仕組みをおさらいしてみよう。
秋になって気温が下がってくると、春から夏の間重労働を強いられてきた葉の葉緑体の働きが弱ってくる。そうなると本体の木からすれば、生産効率が下がってくる、つまり「働きが悪くなった」葉っぱに栄養を送り続けるのが負担になる。(葉っぱだって、生きるためには本体から栄養補給を受けなければならないのだ)それで、木は葉柄の付け根の部分にコルク質の層を形成して、葉に養分を取られることを妨げるのである。このコルク層は「離層」と呼ばれ、やがてやってくる落葉の準備でもあるのだ。つまりはリストラである。企業が働きの悪い社員の給与をカットして、レイオフや解雇に向けて準備をしていくのと同じ事を、木々もやっているのである。

離層が出来ると葉に養分が行かなくなると共に、葉からも光合成の結果できた糖を本体の木に送ることが出来なくなる。そうすると葉の中の糖は濃縮され、これに秋の日差しが降り注ぐとアントシアンという赤色色素が合成される。これは、崩壊し始めた葉緑体を紫外線から保護し、出来るだけ光合成を長く続けさせようという、いわば兵糧を絶たれた葉の延命策でもある。つまりは労働者の抵抗である。けなげな努力ではないか!
しかし、その努力も補給が無ければ長く続くはずも無く、葉緑体は次第に分解されていって、やがてアントシアンの赤い色が葉の全体を染めるようになる。これがカエデなどの紅葉の仕組みなのだ。

アントシアンが合成されるためには気温と天候が重要である。1日の最低気温が8℃以下になると紅葉が始まり、5~6℃以下になると紅葉は途端に加速される。鮮やかに紅葉するには、昼夜の気温差が大きいことも必要だ。且つ、上に述べたように、強い日光が葉緑体の分解を促進し、それに対抗してアントシアンの合成が進むのであるから、空気が澄んで葉が充分日光を受けられる「秋晴れ」の日が続くことも重要なのだ。♪秋の夕日に照る山もみじ♪のように、紅葉には晴天が大切な役割を担っているのである。

一方銀杏などでは、アントシアンは合成されない。
葉の中には葉緑素だけでなく、元来カロチノイドという黄色の色素も含まれている。「緑したたる葉」というのは、葉緑体に含まれる緑色色素(クロロフィル)が、カロチノイドを凌いで大勢を占めているせいなのだ。さて、銀杏であっても、秋が深くなると葉柄の付け根に離層が形成され、葉緑体が破壊されていくことには変わりはない。その過程でアントシアンが合成されないと、今まで目立たなかったカロチノイドの黄色が形勢逆転して大勢を占めるようになる。これが黄葉のしくみなのだ。つまり黄葉する木は、宿命に抵抗することなく諦念を以て自らの亡びを受容するという、かなり禅僧に近い性格を持っているといえそうである。

さて、北国の落葉樹である。
彼らは、春から夏にかけて生命維持の源である日光を求めて、互いに争うように枝を伸ばし、葉を茂らせる。他の木々を制して如何に多くの日光を捉えるかは、正に彼らの「命を懸けた闘い」であるのだ。
そうして夏が過ぎて秋になる。そうなると上に述べたように、個々の葉に離層を形成せねばならない。これは、何でもないように見えて、実は木にとっては相当のエネルギーを消費しなければならない一大作業なのだそうだ。しかも、すべての葉にほぼ一斉に離層を作ってやらなければならないのだ。ある程度の大きさの木で、一本辺り数十万枚、大木になると百万枚を超える葉が付いているそうだから、確かに想像するだに大変な労力であろう。

何故そんなにまでして、落葉を急がねばならないのか?
それは、やがて来る雪の所為だ。つまり、初冠雪がやって来るまでに全ての葉を落としておかないと、枝に積もる雪の重さは、裸の枝の場合と較べて倍して違うのだそうだ。そうなると、雪の重みを支えきれず枝が折れてしまう。つまり、翌年茂らせる葉の数は激減し、充分な糖を合成できなくなってその木は生存の危機に直面せざるを得なくなるのである。
我々は黄葉や紅葉を眺めて喜び、「もみじ狩」などと呑気な事を云っているが、木々は「早く色づけ!早く散れ!」と大いに焦っているのである。文字通り命を懸けて葉を散らそうとしているのである。一方で紅葉する木では、一枚一枚の葉は、先ほど書いたように、これまた必死に抵抗している。
つまりは、見た目には美しい紅葉・黄葉は、生存をかけた壮絶な闘いの証でもあるのである。


♪♪今回の厚木語辞書♪♪

『こうこをしのぐ』 - 「こうこ」とは「お新香」の方言である。つまりは漬物。漬物の中でも、高級なものは「こうこ」とは呼ばない。大抵の場合、「こうこ」と云えば、まっ黄色に着色された大根の漬物のことであるようだ。「こうこを凌ぐ」は、この「こうこ」だけをおかずとして、粥を食べるだけで飢えを凌ぐような貧しい暮らしをしている事である。
【対応する日本語】 - 糊口をしのぐ。






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最終更新日  2006.10.18 15:57:04
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