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マックの文弊録

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2007.08.18
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◇ 8月18日(土曜日) 旧文月六日、甲申。 伝教大師誕生会。

このところ円が急速に高くなっている。
僕の会社はドイツ製のソフトウェアを扱っているから、仕入の代価としてドイツのメーカーにお金を送る必要がある。ドイツの通貨はユーロ(€)である。昨日、ウチの経理担当者が、「ユーロが廉くなっているから、ドイツに送金するなら今ですね。」といってきた。実際、ついこの間までは1ユーロは170円程度で、更に上げ気味で推移していたが、今では150円台前半にまで下落した。

「風が吹けば桶屋が儲かる」という俚諺がある。
うろ覚えだけど確か;
風が吹けば埃が舞って、目をやられる。《日本の道路が隅々まで舗装されるようになったのは、昭和30年代の後半以降のことだ。》
→目をやられると、失明者が続出し、按摩が増える。《めくら(今では差別用語だ)は、按摩になるのが相場だった。》
→按摩が増えると、三味線が売れる。《三味線は按摩の必携品でシンボルマークだった。》
→三味線が売れると、猫が居なくなる。《三味線の胴は猫の皮で張る。》
→猫が居なくなると、鼠が増える。《今の猫は銀のスプーンで缶詰の魚肉を食っているが、以前は独力で鼠を捕獲して食料としていた。》
→鼠が増えると、桶をかじって駄目にする。《日本の家庭には桶は必需品で、多種多様のものが使われていた。行水を使うには盥、風呂の湯を汲む湯桶、近隣から「お宝」を頂いて作物の肥やしとして役立てるための肥桶、死人を焼き場に持っていくための棺桶・・・・》
→従って桶が急激に売れるようになって桶屋が儲かる。

この話はバタフライ効果(ブラジルで蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こる)の類縁としても引き合いに出されるが、主体が一行ごとに替わって行くところなど、中々良くできたものだと感心する。

西洋にも似た話がある。;
太陽が「おれは世の中で一番強くてエライのだ」と威張っていたら、雲が来て、「いや、太陽なんかは俺が隠してしまえるのだから、俺が一番強くてエライ」という。すると風がやってきて、「いやいや、雲なんか私が吹き飛ばしてしまえばおしまい。私が一番強くてエライ。」と威張る。次に壁が(何故突然壁なのか良くわからない!)「風は私が遮ってしまえるのだから、私が一番強いですねぇ。」という。すると、最後に鼠が「壁だって私がかじって穴を開けてしまえばオシマイでしょう!」と言って、結局、鼠が世の中で一番強くてエライのだということになる。

しかし、この話と較べれば、わが国の「風が吹けば桶屋が・・・」の方が、遥かに味があって上等だと思う。
ところで「風が吹けば・・・」の話を現代に付会すれば、さしずめ以下のようになるだろうか。

「風が吹くと埃が舞う。」
→近隣の住民が「居住環境の整備は行政体の責任だ」と騒ぎ出し、やがて行政も無視できなくなる。そこで公共事業として舗装工事を企業に発注することになり、競争入札か随意契約かでもめ、汚職騒ぎになるか、道路舗装会社の株が高騰する。

「目をやられると、失明者が続出。」
→ロート製薬や大正製薬などの株価が上がる。

「按摩が増える。」
→盲目の按摩の需要と言うものが、今の時代でどれほどのものかは分からないが、按摩の過剰供給ということになれば、労働対価が値崩れを起こし、最低賃金保証を求めて按摩の団体が形成され、デモ騒ぎが起こるかもしれない。最近流行の巷のマッサージサロンなどとの競合が生じ、全国展開するマッサージ会社の株価は下落するだろう。

「三味線が売れると、猫が居なくなる。」
→先ずは動物愛護団体が抗議の行動を起こすだろう。
テレビ漫画サザエさんの「♪お魚咥えたドラ猫を追いかけてぇ~、裸足で駆け出す愉快なサザエさん♪」という唄は死語(歌)になるだろう。
又中国などからの猫の輸入が急増し、輸入業者はしこたま儲け、かの国では桶屋が儲かることになるだろう。そうなると森林資源の伐採は加速され、中国の水不足はいよいよ深刻になり、北京オリンピックの開催も困難になるだろう。北京政府は淡水化プラントの導入を急ぐようになり、その結果、日東電工、東レ、日立造船などこの分野での技術を持つ企業の株価が高騰するだろう。

「猫が居なくなると、鼠が増える。」
→鼠肉の調理法が開発され、段ボールの代わりにハンバーグに混入され・・・・
もうきりがないから、この辺でやめよう。

これらの話にも共通するのは、様々な事象やその相互関連が木の枝のように広がった構造(実際にはこの構造自体複雑で、非線型構造だし、時間軸も考慮しなければならないだろうが)の中を、枝分かれの箇所に来る都度、そこでの分岐の数に関係なく、他の選択肢を考慮しないで一つの枝だけを勝手に選んでしまうと言うことだ。
それでも、枝先から幹に向って行くのなら、このやり方でもいずれは「幹」にたどり着く可能性はある。これは帰納法的アプローチとでもいえるかもしれない。
しかし、こういうやり方を逆方向に辿ると、つまり「蓋然的な仮定」を前提に具体的な結果を求めようとすると、幹から枝葉の方に向うようなもので、どの枝先に行き着くかは、非常に恣意的な要素に左右される事になってしまう。

色々書いたが、上のような例だと笑い話になるけれども、実はこの笑い話が実際に、政治も含め金融経済界に起こっている事の本質なのだ。
この頃話題になっている「世界全面株安」というのは、実は「風が吹けば・・・」の話と本質的に変わりはない。

米国とそれに続いてフランスで、サブプライムローンの焦げ付きが発表された。
→こういうローンは証券化され、様々なファンドが買い取って、これを顧客に売って運用している。
→ファンドや顧客は「損をすまじ!」と売りに入り、株式市場は一種の取付騒ぎ状況に近くなった。
→信用不安に依る金融不安の兆候が生じた。
→各国の中央銀行は緊急資金投入に走り、大量の資金が市場に流れた。そのため世界的な通貨バランスを維持するためのBISの活動に影響が出た。
→「カネ」は関連する諸方面から逃げ出すことになり、通貨では円が買われ円は高騰した。
→円高による我国輸出関連企業の業績見通しに不安が生じた。世界でも同様の現象が起きた。
→世界全面株安になった。

僕はこの分野の専門家ではないから、上の話は新聞やテレビの報道の受け売りでしかない。だけど(幸いにして)この分野の専門家などではないから、こういう話の「風が吹けば・・・」本質は却ってよくみえるものだ。
無論実際の物事はそれほど単純ではない(あぁ、こういう言い方もイヤだなぁ)。欧米のサブプライムローンの債務者の更なる家計悪化による消費活動の低迷化。FX(外国為替証拠金取引)の破綻による自己破産者の急増などなど。これに又風評や素人・専門家入り乱れての思惑が絡み、「結果が前提に影響を及ぼし、またそれにより結果が増幅され・・・」というネガティブサイクルが加速される恐れがある。人間の(特に欲深い種族の)絡む複雑系の世界では、ほんのちょっとしたきっかけで、そういうことが起こり得る。
そして最終的には民草の実体的な生活に極めて重大な影響を及ぼすことにもなっていくのである。

大事な事は、上記のような「風が吹けば・・・」は、額に汗してモノを生産し、流通させている世界とは全く別の次元で起こる。もっと云えば、「カネでカネを儲けている世界」で、主に「風評」や「発表」を引鉄にして起こってしまうと言うことだ。
このところつくづく痛感しているのは、「世の中の力やカネは、表に見えているのはほんの一割」と云うことだ。残りの九割は、ほんの一握りの連中によってウラで動いている。こういう連中は抽象的な世界に身を置いて、世界や経済を自分に望ましい全体像としてコントロールしようとする。こういう種族の得意技は「理念」と「大きな数字」を語ることである。つまりは演繹的なアプローチを取ってしかも恣意的に進むだけで、梢の先の一枚の葉の運命などには頓着しない。頓着できるわけもない。(第一知らないのだから。)そうして、大抵の場合に間違った手段を取った事を後付で理解するのである。しかもこういう連中がその咎を受けることは先ずない。世界や国を動かす二大要素、つまり力とカネの両方を握っているのだから、それは当然のことである。
これが事実であることは、そこいら辺の近世史に関する本を読めば即座に証明される。

で、それが「汗と努力で糊口を凌いでいる」、「自らの努力の先にささやかな希望を見ている」民草の世界に、実際の深甚なる影響を具体的にもたらすのだから、これは理不尽極まりないと思うのである。

ところで、僕の会社は会社の事業展開の為に資金調達を求めている。資金の不足は当社のような小企業では慢性的な症状である。一番カネを持っている、或いはカネでカネを儲けている連中は、当社のようなささやかなニーズには目もくれない。或いは大企業にしか適用しようがない原則論を、当社のような弱小企業に押し付けてきて、結果的に「足切り」をしてしまう。だから、我々などは「日銀が6千億円に続いて4千億円の供給オペを実施!日銀総裁は金融機関の要求には即座に応じると明言!」などというニュースを横目に、何十万円や何百万円のやりくりに喘ぐことになってしまう。
しかし、暫く前からある篤志家との知己を得て、具体的になりそうな融資話が始まっており、実はその資金の原資が外国為替に関連するものであることが知らされた。そうなると、ウチの経理担当者のように、円高を単純に喜ぶわけにはいかないのである。


小なりとは言え「実業」の世界で四苦八苦している僕や、モノづくりやサービスの生業に汗を流しているわが同胞の民草としては、ニュースを読み流し、聞き流すだけではなく、自らに何れ降りかかるものかもしれない覚悟で考え、「風が吹けば・・・」流のインチキを見抜くことが、せめてもの対抗策であろうと思うのである。







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最終更新日  2007.08.18 14:54:03
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