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マックの文弊録

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2009.01.05
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◇ 1月5日(月曜日); 旧師走十日 庚戌; 小寒、初水天宮

己丑の年が明けて五日。今日は二十四気の小寒である。
日本海側の連日の降雪にも関わらず、関東地方は例年通りの冬晴れが続いている。

オオタカ(大鷹)という鳥がいる。
体長約50センチ、翼を広げると1メートル以上にもなる肉食猛禽類だ。

我が家からほど遠からぬ狭山丘陵地帯の一角に、狭山湖がある。秩父山系を源とする多摩川の水を集めて、東京の上水として供給するために、埼玉県の領内に作られた理不尽な人造湖だ。此処の水は埼玉県には分配されない。その証拠に、狭山湖には石原東京都知事の筆になる「五風十雨の趣」とかいう石碑があるが、埼玉県知事の碑は置かれていない。
少し東南に離れた所には多摩湖という湖も有って、この二つの人造湖の周辺は里山が豊かに残され、近隣の人や動植物にとって癒しと生息の場所になっている。

狭山湖の堰堤は暫く前に大改修が施され、新しくなった堰堤に沿って歩くと、湖面を近景にはるか秩父連山や富士山を望むことが出来る。広い開水面のあるところは人の心を晴れやかにしてくれる。

その一角にオオタカの営巣地があって、地元の好事家には観鳥、撮影の人気ポイントになっている。
西武球場のドームを過ぎて狭山湖の堰堤の端に登ると、遥かもう一方の端がオオタカ観望の適地になっている。其処に作られたあずまやの付近には、いつ行っても何人もの人が集まって湖岸の一角、入り江になった付近を眺めているのが常らしい。
僕が訪れた日はあずまやのテーブルにはお弁当や飲み物なども広げて、ピクニック気分の人達も居た。近くにある狭山不動や山口観音に初詣をしがてら見物に来た人もいたのだろう。

あずまや周辺と湖を隔てる柵には、長大な望遠レンズを装着したカメラが何台も並んで放列を敷いている。皆立派なカメラで羨ましい。「本体のレンズが600ミリで、それに900ミリの望遠を付けているんです。」などと、カメラ自慢の話も聞こえてくる。しかし、それがにらむ方向の水際にはカラスが群れているばかりである。
どこでもそうだが、ここでもカラスはカァカァと鳴き交わしてうるさい。

時々カラスの群れの中の一羽が舞い上がると、それにつられて他のカラスたちも飛び立ち、入り江の脇の枯れ木林に向けて煽るように飛ぶ。ひとしきり騒ぎまわるとまた元の場所に舞い戻る。水際は浅瀬になっていて、其処で文字通りカラスの行水をしているのもいる。それを何度も繰り返している。

周りの常連さんたちの話を聞いていると、これはカラスがオオタカを挑発しているのだそうだ。
挑発に乗ってオオタカが狩りに飛び立つ。そして獲物を捕らえるとオオタカはその獲物を傷つけて湖面に一旦落とす。そしておとなしくなった獲物を食うことになるが、カラスはその食べ残しを頂戴するのだという。

オオタカの獲物は、小動物や小型の鳥だそうだが、時にカラスも獲物にすることもあるのだそうだ。そうなるとそのお余りを頂戴するカラスは共食いをすることになるが、その点はカラスは気にしないのだろうか?

やがて、俄にカラスの群れがいっそう騒がしくなった。周りの常連さんたちから「出た出た!」という声が上がる。入り江の枯れ木林の一角から、明るい灰褐色に見える鳥が飛び出した。オオタカだ。
オオタカは矢のように湖面に向かうと、あわや水に接するかという刹那、身を翻して急上昇していく。カラスの群れは吹流しのように先頭のオオタカに追随していく。

オオタカは鷹狩りに使われた鳥だ。最高スピードは時速80キロにも達すると云われる。飛翔するスピードはだから到底カラスの及ぶところではない。
オオタカは追いすがるカラスの群れを尻目に猛然と狩りをしているのだろう。が、しかしそれを知らずに見ている限り、たった一羽のオオタカが無慮十羽程ものカラスの群れに追いかけ回されているような様子なのである。

この「狩り」は時間にしてそれ程長いものではない。せいぜい長くても30秒程度の時間に、上記のような行動が2~3度繰り返され、オオタカは枯れ木林の中に戻っていく。カラスの群れも再び水際に戻るのである。

この日は、風がやや強めの晴れた寒い日だったが、同じような光景を数分おきに観る事が出来た。常連さんたちによれば、こんなに頻繁に見られるのは運が良いのだそうだ。「今日は余程腹がすいているのかなぁ」という声も聞かれた。オオタカは1月の下旬頃から恋の季節に入るのだそうだから、今は来るべき熱情の時に備えて体力を蓄えようとしているのかもしれない。
途中ひときわ背の高い枯れ木の枝にオオタカが独り止まっているのも見えたそうだが、肉眼しかない僕には見分けることが出来なかった。

オオタカは孤高な鳥というイメージがある。
狭山湖一帯の食物連鎖の中では最上位に位置する生き物だから、孤高にならざるを得ない。

一方のカラスは自分では狩りをしないのだという。衆を頼んでオオタカを挑発し、その狩りの余禄を(時には同類の肉まで)食らうのだ。そういう手法を集団という場で編み出したわけだ。頭脳という点ではカラスの方が賢いといえるかもしれない。

僕自身は、どうしてもオオタカの方に肩入れしてしまう。しかし、大勢のカラスに付きまとわれて、結果はカラスを養うことにもなるというのも皮肉な話だ。
何だか人間の世界を思うと、身につまされるものがある。








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最終更新日  2009.01.06 12:57:36
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